韓国で盛り上がる“北朝鮮向け”核武装論議!ミサイル発射を未然に防ぐ「発射の左側攻撃」も注目
国連の安全保障理事会は5月26日、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射した北朝鮮に対する追加制裁を採決にかけ、理事国15カ国のうち13カ国が賛成したが、拒否権を持つ中国とロシアの反対で否決された。対北朝鮮制裁決議が否決されるのは今回が初めてだ。
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「2017年12月に国連安保理は『北朝鮮が再度の核実験やICBMを発射した場合、重油類の搬入をさらに制限する』という自動制裁決議案を通過させ、これに中ロも賛成しましたが、今回、両国は自らが賛成した条項を反故にしている。その無法ぶりは目に余ります」(外交関係者)
その理由は、中ロを取り巻く国際的圧力が強まっているからだ。中国は香港や台湾、ウイグル、南沙・西沙諸島問題、ロシアはウクライナ侵略で自由主義圏から非難されている。こうした渦中にある中ロ側に立って擁護してくれる国は、いまや北朝鮮しかない。
「北朝鮮は7回目の核実験をいつでも実施できる状態です。金正恩総書記は、6月に開催される『労働党中央委員会総会』までに、現実を覆い隠してコロナ終結を宣言し、同総会で核実験に言及するでしょう。最近はプルトニウムの大量抽出のために、寧辺(ヨンビョン)で50メガワット級原子炉の建設も再開していますから、戦術核の実験を行う可能性が高まっています」(同・関係者)
中朝間にも血で固められた友誼が
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、90年代に撤去された在韓米軍の戦術核再配備を公約にしている。また、こうした米韓同盟を活用した方法以外に、独自の北朝鮮核対応手段を開発するため、強力な対策を講じるとしている。韓国最大の保守系日刊紙『朝鮮日報』は、このタイミングで、第二次世界大戦中に米国が原爆開発のために進めた「マンハッタン計画」に触れ、その「韓国版」ともいえるプロジェクト推進の必要性を訴えた。
「中朝間には、有事の際の相互軍事支援を定めた『中朝友好協力相互援助条約』がある。中国は1950年に勃発した朝鮮戦争に人民義勇軍を参戦させ、多大な犠牲を払って北朝鮮を救ったため、この条約は『血で固めた友誼』と表現されています。一方、米国も仁川上陸作戦でソウル西方約20キロ付近に海兵隊を上陸させ、38度線から北へ中朝軍を押し返しました。米韓にも中朝と同じように、血盟関係が存在しているのです」(在日韓国人ライター)
韓国は2021年、18歳以上の男女1000人に対面方式でアンケートを取ったが、その結果、韓国の核兵器保有に賛成する人の割合は71.3%を占めた。また、原子力潜水艦の開発に賛成の人は75.2%に達するなど、日本のような核アレルギーは見られない。
ストックホルム国際平和研究所によれば、朝鮮半島有事の際、中朝条約にのっとり参戦する中国の核兵器保有数は350発(21年1月時点)で、前年の320発から30発増加した。米国の5550発、ロシアの6255発とは隔たりがあるが、中国はさらに核兵器を大量増産する姿勢を示している。
「北朝鮮の核兵器保有数は40~50発と推定されており、韓国が中朝に対して最小限の核抑止力を持つためには、200発程度の核戦力が必要になるでしょう」(軍事ライター)
北朝鮮が最も恐れるは韓国…
また、韓国版マンハッタン計画は、核武装だけを指すものではない。「軍だけでなく、民間分野のIT(情報技術)なども網羅する国家総力戦です。中でも北朝鮮の核ミサイルを発射前に無力化する『発射の左側攻撃』は、注目に値します」(同・ライター)
「発射の左側」とは、相手国がミサイルを発射する前の先制措置のこと。ミサイル発射時を中心として、左から右に時間軸の線を書くと、左側が発射前になるのでこう呼ばれている。
日本のミサイル防衛システムは、下降してくる段階での迎撃が基本だが、現実問題として「落下してくる針を針で撃ち落とす」といわれるほど命中精度は低い。ところが左側、つまり発射準備の段階でサイバー攻撃を仕掛け、ミサイルを無力化してしまえば、攻撃を未然に防げるのだ。
北朝鮮は「最大の敵は米国」と喧伝しているが、実のところ最も恐れているのは韓国だ。経済力や通常戦力で圧倒的に勝り、北朝鮮を飲み込んで朝鮮半島を統一するだけの国力がある。
ただし、限定的にせよ紛争が起きれば、人口の半分強が集中するソウル圏は南北国境に近く、国際経済に深く組み込まれている韓国のほうがより大きな損失をこうむる。それだけに「発射の左側攻撃」には、大きな期待がかかっている。
「朝鮮半島で戦争が起きた場合、北朝鮮は在韓米軍が介入すると考えているので、それを阻止するために在韓米軍の司令部を確実に攻撃できるミサイルを保持している。さらには射程を伸ばして、在日米軍の介入を阻止するために、基地を叩けるミサイルを持つことを目指している。日本も中朝のミサイル攻撃と無関係ではありません」(同)
韓国は対北強硬策を採る尹政権発足により、現実的な核武装議論を開始した。日本は相変わらず、北朝鮮のミサイル発射を見上げながら、ぼんやり「遺憾だ」と繰り返すだけだ。
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