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1000円超えの華麗なる変身“高級のり弁”ブーム~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

手軽で安価な大衆食の代表格である「海苔弁」が注目を集めている。なんでも「高級海苔弁」が登場し、一部で行列ができるほどのブームなのだとか。

そもそも「海苔弁」とはいつ頃誕生したものなのか。その歴史について、フードアナリストがこう解説する。

「海苔弁の歴史は古く、安土桃山、江戸時代にまでさかのぼるそうです。現代版は一大弁当チェーン『ほっかほっか亭』(1976年)が先駆けとされています。当時、家庭の食卓にあったご飯に海苔とおかかをのせ醤油をかけたものをベースに、白身魚のフライやちくわ天などの具を加え、今の形になりました。弁当の中でも格安の200円台というお得感もあり、またたく間に大ヒット商品となったのです」

そんな海苔弁の高級版とは、果たしてどんなものか。外食業関係者によると、今日のブームを引っ張る2つの専門店があるのだという。

その1つが2017年、東京・銀座の松坂屋跡地に誕生した複合商業施設「GINZA SIX」内に出店された『刷毛じょうゆ 海苔弁山登り』(株式会社海苔弁山登り運営)だ。外食業関係者が言う。

「『海苔弁山登り』は、日航の機内食からスタートした企業。有明海で1%しか獲れない、その年の一番摘みの新芽だけで作られた『海苔』を使用するなど徹底して味と食材にこだわっています。それらが話題となり、海苔弁としては1000円を超える高額商品にもかかわらず、多い日は1日600個も売れるそうです」

こだわり抜いた食材で人気を博す

そして、ブームを引っ張るもう1つの店が20年7月に東京・九段下にオープンした『海苔弁いちのや』。こちらも1000円超えの高級路線でありながら、行列店となっている。先の外食関係者が説明する。

「『海苔弁いちのや』も食材と味へのこだわりが凄いです。ごはんは新潟産米の新之助ともち麦を配合。海苔は瀬戸内海産、鶏モモ肉は三重県松阪名物で味噌だれ味、醤油は関東本樽仕込みのだし醤油、かつお節は鹿児島県産一本釣りのものなどです。この徹底ぶりが人気を呼び、あっという間に店舗も増え、今では都内7店舗、22年には全国15店舗まで拡大予定というからその勢いは止まりません」

ほかにも今日の「高級海苔弁」ブームの火付け役といわれる店がある。福島県郡山駅の駅弁で『福豆屋』が作る「海苔のりべん」がそれだ。デパートの食品バイヤー関係者が言う。

「当初、この弁当は売れ行きがいまひとつでした。しかし15年、TBS系の『マツコの知らない世界』で紹介されて一躍有名に。弁当の中身は焼鮭、玉子焼、煮物、漬物などで、海苔は宮城県産の『みちのく寒流のり』を使用しています」

ちなみに、この「海苔のりべん」をさらに贅沢にした「海苔のり弁887」が昨春発売され話題に。米飯に郡山の高級ブランド米「ASAKAMAI887」を使用し、おかずに牛肉煮を加えて高級感を増している。

東京・錦糸町の『坊々樹』の海苔弁も外せない。外食業界関係者が言う。

「和食店『坊々樹』は1905年創業という米屋の『隅田屋』とタッグを組み『五つ星のり弁』を提供する、知る人ぞ知る人気店です」

この「五つ星のり弁」の特長は選米にある。もちっとした食感の宮城県産ひとめぼれと富山県産最高級コシヒカリを最適にブレンド。ほか炊飯、温度管理、瀬戸内海産海苔、和食店ならではのこだわりを武器に、人気を博す。

外食自粛のストレスも相まって

一方、海苔で有名な老舗も動き出している。1690年創業の『山本山』(東京)だ。料理研究家が言う。

「東京・日本橋の『山本山 ふじヱ茶房』では、店内やテイクアウトで多彩な海苔弁を出しています。人気の『海苔重』は、中下段は自家製醤油だれで味付けした海苔を、上段には塩で味付けしたばら干し海苔を敷いて仕上げた、海苔が主役の逸品。2000円前後と高価格ですが、大変評判です」

それにしても大衆食の「海苔弁」が、なぜ今高級化し、軒並みウケているのか。その理由をフードアナリストが分析する。

「現在も、従来の格安海苔弁は健在です。ただ、もともと日本人はバブルなどを経て舌が肥え、本当に美味いものならお金に糸目をつけないと考える人は多い。そこに素材や味に満足できる高級な海苔弁がやっと登場したということです。海苔弁は日本の伝統的な食の味であると同時に『お母さん、おふくろの味』でもある。提供する側にも客側にも親しみがあります。さらに、コロナ禍による外食自粛へのストレス、美味しいものを家で食べるという意識や、弁当自体の需要の高まりなどが重なりました。まさに高級海苔弁ヒットの条件がそろったのです」

また、フードアナリストは、今後をこう予測する。

「コロナ禍で外食産業は、依然として厳しい状況です。そんな中、ワタミ系列の『から揚げの天才』や立ち食い蕎麦チェーン『ゆで太郎』などは、低価格の海苔弁で売り上げを伸ばしています。外食業界は今後、低価格海苔弁と並行して、高額でも売れる『高級海苔弁』にも挑戦すると見ています」

高級海苔弁店の競い合いは、激しさを増しそうだ。

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