『日本はすでに戦時下にある―すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』ワニブックス/1980円
渡部悦和
前富士通システム統合研究所安全保障研究所長、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー、元陸上自衛隊東部方面総監。1978年東京大学卒業後、陸上自衛隊入隊。2011年に東部方面総監、13年に退職。
――渡部さんは現代を『全領域戦の時代』と表現しています。全領域戦とは一体どのようなものですか?
渡部 領域とは戦う空間のことで、従来は、陸、海、空の領域での戦いのみでしたが、最近は宇宙、サイバー、電磁波領域での戦いも重視されるようになりました。本書で強調したのは、既述の領域のみならず、情報、経済、認知、メディア、政治、外交、法律、技術、歴史、宗教、イデオロギー、資源などすべての領域を使った『全領域戦』で戦わなければ負けてしまう時代になったという警告です。
実際に現在進行中のウクライナ戦争では、SNSを使った情報戦、サイバー戦、宇宙戦、メディア戦、金融制裁による経済戦が進行しています。
――日本も多くのサイバー攻撃を受けているといいますね?
渡部 2021年のデータでは、この1年間で日本企業の52%がランサムウェア攻撃(身代金要求型ウイルスによるサイバー攻撃)を経験し、うち28%は2回以上の攻撃を経験したという驚きの結果が出ています。そして、攻撃を受けた32%の企業が払った身代金の平均額は1億2300万円にも上ります。
まずは“憲法9条”の改正が必要
これらの被害を防ぐためには、①データのバックアップをこまめに取る、②2段階認証または多要素認証を行う、③パスワード保護を確実に行う、④身代金は払わない――などの措置が不可欠になっています。
――SNS上には中国、ロシアの工作も多数あるといいます。どんな偽情報が流布しているのでしょうか?
渡部 SNS上には「米軍が新型コロナを武漢に持ち込んだ」「ファイザーやモデルナのワクチンは副作用がひどく危険だ。これらのワクチンを接種すると3年以内に死亡する」などの偽情報が流れています。
また、ウクライナ戦争では、「ロシアはウクライナを攻撃しない」「ウクライナ国内の住民虐殺はロシア軍ではなくウクライナ軍が行った」などのロシアの偽情報に対し、それらを否定する事実に基づく情報戦をウクライナと米国が展開し、勝利しています。
――全領域戦で勝利するためには、どうしたらよいのでしょうか?
渡部 まず手始めに憲法9条の改正が必要でしょう。中国は目的のためには手段を選ばない「超限戦」国家です。これに対し日本は、「軍事大国にはならない」「専守防衛」「必要最小限の武器使用」など制約が多く、中国にとって「鴨葱国家」になっています。日本は、賢くて強靭な国家になり、「全領域戦」に勝利しなければいけません。
(聞き手/程原ケン)
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