Ⓒ2022「大河への道」フィルムパートナーズ
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『大河への道』/5月20日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

『大河への道』 監督/中西健二 出演/中井貴一、松山ケンイチ、北川景子、岸井ゆきの、和田正人、田中美央、溝口琢矢、立川志の輔、西村まさ彦、平田満、草刈正雄、橋爪功 配給/松竹


コロナ禍になる前、関東近辺の穴場的観光地を訪れる小旅行を、趣味の1つとして繰り返しておりました。


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で、千葉県香取市「佐原の大祭」を見に行った際、自分も『伊能忠敬記念館』に訪れていたのです。本作のロケ地にもなった小江戸の情緒が残る街並みをそぞろ歩いたりもして。偶然とはいえ、行っておくもんだなぁと。それまでは伊能忠敬が佐原の人だったとも知りませんでしたから。


本作の原作は、立川志の輔の創作落語。たまたま訪れた伊能忠敬記念館で、忠敬が日本中を歩いて作った実測地図の恐るべき正確さ(衛星写真との誤差0.2%!)に驚き、「地元で唯一(?)の偉人である伊能忠敬で大河ドラマを作って観光振興しようとする人々の物語」を作り上げたそうです。


2011年の初演以来、絶賛を浴び続けるこの「志の輔らくご」を見た中井貴一が、何としても映画にしたいと企画プロデュースしたのが本作。江戸時代と現代を行ったり来たりする設定が実に新鮮でした。

物語の主軸・伊能忠敬は出てこない…

しかも映画版では、江戸時代と現代の登場人物がほぼすべて、一人二役で演じられています。幕末あたりまでの時代劇を見ていると、どうしても今と切り離された、別の世界に生きた人々の話と感じてしまいがちです。ところが本作では、2つの時代に生きる人を同じ俳優が演じるので、歴史は地続きであると自然に感じることができます。例えば、定年前の市役所職員と江戸幕府の役人の二役を、「冴えないサラリーマン」をやらせたら日本一の中井貴一が演じるんですから、映画を見ている方はがっつりリンクしていると感じます。

それにしても、中井貴一は大真面目に演じれば演じるほど可笑しい「中井喜劇」ともいうべきジャンルを確立しました。今どき誰もやってない8:2分けの髪型といい、彼の演じる凡庸ながら正義感はある人物像は、この連載で取り上げた作品の中だけでも、いくつもある。あまりに分かりやす過ぎて、凡庸と感じることもなきにしもあらずなんですが、少なくとも安心して見られる。年を重ねるにつれて、つくづく不思議な喜劇人になったなと思います。


リンクといえば、映画に出てくる知事は明らかに森田健作をパロッている。『翔んで埼玉』に続く千葉自虐映画にも見えてきます。本作が面白いのは、それだけじゃありません。誰もが歴史の授業で習った日本初の地図作りの裏に隠された、ある秘密が最大のフックになっています。伊能忠敬の映画のはずが、伊能忠敬を演じる役者は出てきません。その先は見てのお楽しみということで(笑)。
やくみつる 漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。