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“生き残り”懸けたノンアルコール飲料市場~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

ノンアルコール(ノンアル)飲料市場が、急拡大している。大手ビールメーカー関係者が解説する。

「大手調査会社、富士経済の統計によると2021年の国内のノンアルビールの出荷額は20年を6.7%上回る775億円。これは前年を約50億円上回っています」

サントリーホールディングス(HD)が調査した「ノンアルコール飲料レポート」(21年10月)でも、その好調ぶりが示されている。同調査によると、ノンアル飲料の市場規模は6年連続で増加しており、20年は前年比3%増の2313万ケース(1ケース=633ミリリットル20本換算)で過去最高となった。この流れは21年も続き、20年比11%増の2570万ケースを見込むという。

ノンアル飲料市場拡大の理由を、先のビールメーカー関係者はこう分析する。

「やはり最大の理由は、新型コロナ禍の影響です。会合や酒類提供の自粛などで、外で飲む機会が減少した上、在宅時間の増加で運動不足や体重増加を懸念し、健康を気遣う人が増えました。同時に、過度のアルコール依存で体の抵抗力が弱まることを心配し、週に一、二度はアルコール抜きの、いわゆる『休肝日』を設けた人が多くなったのです」

また、大手ホテルのシェフは、こうも指摘する。

「しかし、いくら健康を意識しても『うまいもの』に慣れた今の人は、味が悪ければ見向きもしない。それでもノンアル愛好家が増えているのは、ノンアル飲料がアルコール飲料と同じか、それを超えるほどうまくなったからです。ウチのお客様でも、酒が飲めてもノンアルで食事する方は確実に増えました」

アルコールの消費量は年々減少…

その一方で、こんなデータもある。キリンホールディングスが毎年調査している「ビール消費量最新データ」(21年12月)で、日本は19年比で9.3%も減らし約441万6000キロリットル(大びん換算で約3.5億ケース)だった。日本人1人あたりの年間消費量は大びん計算で同比5.5本も減少。つまり、日本ではビールの消費量が年々減っているのだ。

この傾向について、ビールメーカーの関係者が言う。

「ビールの消費が減った一番の原因は、コロナ禍で外食産業全体が失速したためといわれますが…実は日本のビール消費は17年連続で減少しているので、コロナだけが原因ではありません。実際、若い世代を中心に酒を飲まない人が確実に増えました。加えて、大酒飲み世代である70代のいわゆる団塊世代が、年をとって酒量を減らしたことも大きい。このためビールメーカーは、コロナ禍と酒を飲まない層が急増する中、生き残りをかけ四苦八苦なのです」

そうした「生き残り」合戦のカギを握るのが、ノンアル商品というわけだ。

アサヒビールの調査では国内の20~60代の人口は約8000万人で、このうち晩酌などでコンスタントに酒を飲む人は約2000万人と推計する。

「裏を返せば、日常的に酒を飲まない人が約6000万人もいる。その層に売れる商品として、各ビールメーカー間で壮絶なノンアル商品開発競争が勃発しているのです」(同)

ノンアルはビールだけではない

では、最近のノンアル商品の動きを見てみよう。酒類やノンアル商品のCMを手掛ける大手広告代理店関係者が次のように解説する。

「注目の一品は、菅野美穂と坂口健太郎をCMに起用し4月にリニューアル発売されたキリンの『グリーンズフリー』。キリンによれば、ノンアルは酒やビールの代替で飲むのではなく、リフレッシュしたい大人の新しい飲み物、という考えです。希少ホップを使用し、甘味料や水飴を使わない爽快な飲み心地を追求しています」

キリンは「新しい飲み物」に自信があるのか、22年販売目標は前年比191%の約110万ケースと超強気だ。

これを迎え撃つのは、発売10周年を迎えたアサヒビールの『ドライゼロ』だ。

「アサヒのドライゼロは、ビール味ノンアルでは6年連続売り上げ1位で、21年も前年比113%と絶好調。4月から今大人気の俳優、菅田将暉を起用し、キリン『グリーンズフリー』に対抗意識満々です」(同)

サントリーも発売13年目、アルコール、カロリー、糖質、プリン体の4つのゼロを謳う『オールフリー』という人気商品を展開。CMもおなじみの菜々緒とオカリナで他社に対抗する。

ところで、ノンアル商品はビール味が先行していたが、昨年3月にサントリーがチューハイ&カクテル風味商品、いわゆるノンアルRTD商品『のんある晩酌レモンサワー』を発売したところ、9カ月で5000万本の大ヒットとなり話題となった。そのため、他のメーカーも同ジャンルに相次いで参入。サッポロは『サッポロ レモンズフリー』を3月に発売し好評を博す。

「ノンアル市場には、ビールメーカーだけではなく日本コカ・コーラなど清涼飲料メーカーも新たに参入中です。海外メーカーも日本の市場を虎視眈々と狙いだしています」(食品メーカー関係者)

22年は、ノンアル市場の椅子取りゲームが、より熾烈さを増す気配だ。

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