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北朝鮮・金正恩“危険な核遊び”!? 米国を嘲笑プーチンの『核恫喝』を猿まね

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(画像)danielo/shutterstock

ウクライナを攻めあぐねているロシアは、核武装した国家が状況を意図的にエスカレートさせることで、相手国に妥協を強いる「エスカレーション抑止」を戦略の中心に据えている。

具体的には、進行中の紛争においてロシアが劣勢に陥った場合、敵に対して限定規模の核攻撃を行って、自国に有利な戦闘の停止を強要すること、もしくは紛争ないし、その勃発が予期される段階で、米国などの第三国が関与してくることを阻止するため、核兵器を使用するというものだ。

5月4日、ロシアはNATO(北大西洋条約機構)に加盟するポーランドとリトアニアの間に位置する飛び地国土(カリーニングラード州)で、核兵器を搭載可能な地上発射型ミサイル『イスカンデル』の模擬発射を実施した。明らかにNATOへの「核抑止(核の脅し)」である。

北朝鮮は今年に入って、短距離、中距離、鉄道移動型に加え、長距離や潜水艦発射型と、さまざまなタイプのミサイル発射実験を繰り返しているが、その狙いを「米国からの攻撃抑止」と説明しているのは、ロシアの「エスカレーション抑止」と同義だ。

「北朝鮮はなぜ核実験の再開をほのめかすのでしょうか。核を保有していれば、それだけで十分な脅威となるわけで、実際に〝隠れ核保有国〟のイスラエルは沈黙を守っている。北朝鮮がこれ見よがしに騒ぐのは米国に注目してほしいからで、必然的に7回目の核実験を行うはずです」(国際ジャーナリスト)

実験で“核”を使用する危険

米韓の軍事関係者によると、北朝鮮が2018年に閉鎖した豊渓里核実験場の地下トンネルで、実験再開のための掘削作業などが確認されているという。

5月7日、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と推定されるミサイル1発を発射した。このミサイルは「北朝鮮版イスカンデル」と呼ばれる地上発射型の短距離弾道ミサイルの改良型とみられ、昨年の10月19日以来、二度目の発射実験となる。

「同日、米国ネブラスカ州オファット空軍基地所属の『WC135大気観測機』と弾道ミサイルの観測能力を持つ『コブラボール(電子偵察機RC135S)』各1機が、沖縄県の嘉手納基地に飛来しました。両機は北朝鮮の弾道ミサイル発射と核実験などを警戒して、任務飛行に当たっていた可能性があります」(軍事ライター)

米国の安全保障専門家らは、韓国の尹錫悦大統領が就任したことで、早ければ年内にも核実験を実施するとみている。

「インドとパキスタンは互いの抑止力として核保有国になりましたが、両国とも6回で核実験を終えている。北朝鮮が7回目の核実験を行うとすれば、弾頭の小型化や多弾頭化を実現するためで、そうなれば日韓の幅広い軍事目標を攻撃する可能性が出てきます」(同・ライター)

小型の核弾頭は、遠方の相手国を攻撃する大陸間弾道ミサイル(ICBM)などに搭載する戦略核とは異なり、通常兵器の延長として戦場で使われる。

「小型核の厳密な定義があるわけではありませんが、広島や長崎に投下された原爆も小型核の範疇に含まれます。小型と表現されるものの恐ろしい破壊力を持っている兵器です」(前出の国際ジャーナリスト)

東アジア全体に危険が!?

金正恩総書記は16年5月に開催された朝鮮労働党の第7回党大会で、核保有を宣言しながらも「核を先に使用することはない」と約束していた。それが、今ではプーチン大統領同様に、公然と「核恫喝」を口にするようになった。

「正恩氏は21年の新年の辞でも、『先制使用や乱用しないことを再確認する』と公言していました。しかし、ロシアがウクライナを侵略し、欧米対ロシアの〝新冷戦〟が始まると、ロシア支援に回って態度を豹変させ、先制核使用を主張し始めたのです」(同)

こうした「核恫喝」の背景には、米国が核保有国に対して直接手を出さないという厳然たる事実がある。では、世界の潮流に逆行し、唯一と言っていいほどロシア支持を鮮明にしている北朝鮮が、いつロシアへの軍事支援に踏み切るのか。

正恩氏が、ロシア(旧ソビエト連邦)の対独戦勝利と北朝鮮(日本統治時代の朝鮮)の対日戦勝利を重ね合わせ、連帯を強調していることを考えると、プーチン氏にどのような忠誠心を見せるのか注目が集まる。

「4月25日に行われた朝鮮人民軍創建90周年を記念した軍事パレードを現場指揮したのは、動静が不明だった軍トップの朴正天党軍事委員会副委員長(次帥)でした。すでに北朝鮮はウクライナに〝観戦チーム〟を派遣していますが、朴氏はロシアと何らかの密約を結んだものと考えられます。もう1つ驚いたのが失脚したはずの李炳哲(当時元帥)が、約10カ月ぶりに復権したことです。この人事もロシアとの間で、何らかの軍事的約束が交わされたことを意味しています」(北朝鮮ウオッチャー)

岸田文雄首相は5月5日に英国で行った記者会見で、「力による一方的な現状変更をインド太平洋、とりわけ東アジアで許してはならない」「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」などと発言した。

本当に朝鮮半島有事を念頭に置くなら、法整備を踏まえた国家安全保障戦略を新たに構築するのが先だ。それに手を付けず単に「有事だ」「平和への挑戦だ」と、いつものお題目を唱えるだけでは、自国民を守ることなどできるはずがない。

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