前田日明「あの人は言うだけ番長」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”
よく「プロレスは社会の縮図」「現実を先取りしている」などと言われることがある。これ自体は熱心なファンにありがちな優越意識にすぎないかもしれないが、しかし、実際に「プロレス界の言葉」が、現実の政治に影響を及ぼした例も実在する。
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2012年、政権与党だった民主党の前原誠司政調会長(当時)が、産経新聞に取材拒否を通達したことがあった。
その理由は「事実に反する、人をおとしめる悪口は受容の範囲を超えた」というもので、具体的には「建設中止を明言していた八ッ場ダムの工事再開など、発言と実際の施政との食い違いに対して、『言うだけ番長』などと揶揄されたことが原因」というのが、もっぱらのところであった。
そうした報道を見て、思わずニヤリとしたプロレスファンも多かっただろう。なぜなら、この「言うだけ番長」というフレーズが最初にメディアに登場したのは、前田日明のコメントとしてだったからだ。
次第に迷走していった世代闘争…
1987年6月12日の新日本プロレス両国国技館大会において、長州力の「おまえたちは噛み付かないのか!」との〝号令〟により世代闘争が勃発。アントニオ猪木を筆頭とする「ナウリーダー軍」に対し、長州、藤波辰爾(当時・辰巳)、前田など「ニューリーダー軍」の闘いが繰り広げられることになったが…。ナウリーダー軍は人員不足もあってか、長州よりもわずか2歳上でしかない藤原喜明が加わり、全面対抗戦の最初の山場となるべき8月19日の両国2連戦初日における5対5イリミネーションマッチでは、マサ斎藤の代わりに、新人の武藤敬司がこれに抜擢されるという意味不明ぶりだった(猪木、坂口征二、星野勘太郎、藤原、武藤VS長州、藤波、前田、木村健吾、スーパー・ストロング・マシン。長州と藤波の2人残りでニューリーダー軍の勝利)。
9月17日に行われた大阪府立体育館でのイリミネーションマッチ第2弾は、ナウリーダー軍側が星野、武藤をディック・マードック、マサにメンバーチェンジして雪辱を期し、最後は猪木が藤波から勝利を収めたが、その試合後に猪木とマサの間に不穏な空気が流れて、これが10月の巌流島決戦へとつながっていく。
このとき長州は唐突に「俺はフライングするぞ」と、ニューリーダー軍ではなく個人での打倒猪木を宣言。同月の両国大会では、猪木への挑戦権を懸けて藤波とシングル戦を行った。そんな中、腰痛による欠場で一連の流れから取り残されていた前田の口から飛び出したのが、長州への「言うだけ番長」発言だった。
当時の『週刊ファイト』は、前田のコメントとして「せっかく両国で、この指とまれってやったのに、とまってみたらこれでしょ? 昔、俺が好きだったテレビアニメで『夕やけ番長』っていうのがあったんだけど、あの人(長州)は実際〝ゆうだけ番長〟じゃないかな」と詳細に記している。
なお、もともと『夕やけ番長』は梶原一騎原作、荘司としお画の少年漫画で、主人公が番長連合を打倒した後に、あらゆるスポーツで活躍していくという奇天烈なストーリーであった。
世代抗争の勃発から終結までの流れを今になって振り返れば、実際のところはテレビ朝日側の主導であったようにうかがえる。
視聴率回復のため全日から長州を奪還したものの、契約問題から試合を放送できないため(代わりに長州の結婚式の放送などでお茶を濁していた)、なんとか長州の影響力をリング上にも及ばせたいという苦肉の策だったのだろう。
長州としても、テレビ局や会社の意向に乗っただけのことであっただろうが、それでいて格好をつけたような言葉を発することが、前田からすると気に食わなかったということか。
長州力“蹴撃事件”の裏に前田日明の不快感…
こうした発言があってから間もない11月19日、後楽園ホールでの6人タッグマッチで、前田による〝長州蹴撃事件〟が起きる。これについて前田は「あくまでも事故だった」としており、実際にも明らかに〝壊す〟ことを狙ったようには見えなかったが、やはり「言うだけ番長」発言の直後だけに印象は悪い。また、実際にも前田の心の片隅に、多少なりとも長州への不快感があったことは否定できないだろう。
結果、前田が新日追放になったことは「口は災いの元」の慣用句が当てはまりそうだが、その後の第二次UWFの成功を思えば「人間万事塞翁が馬」とも言えそうで、どう判断するかはファンそれぞれによっても異なりそうだ。
なお、冒頭の前原氏、実は長州のファンだったというから、「言うだけ番長」の由来を知っていて余計に腹が立ったという部分もあったのかもしれない。
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