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蝶野正洋『黒の履歴書』~試合中の事故に関する今後の判断と課題

蝶野正洋 
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

プロレスリングZERO1の旗揚げ20&21周年記念大会が4月10日、両国国技館で開催された。

もともと昨年に行うはずだった旗揚げ20周年記念大会が繰越しになって21周年と同時開催になり、さらに2月に開催予定だった「押忍PREMIUM」という興行もドッキング、全40団体、80名以上のプロレスラーが参加するというオールスター興行となった。

俺は大会アンバサダーに任命され、ブル中野さんとのトークショーや、開会宣言をやらせてもらった。アンダーマッチも含めると全17試合のマラソン興行となったけど、ベテランも新人も持ち味を発揮して、どの試合も見どころがあって、非常に盛り上がっていた。

アクシデントが起こったのはメインイベント。世界ヘビー級王座のベルトを保持しているプロレスリング・ノアの杉浦貴選手に、ZERO1の屋台骨を支え続けてきた大谷晋二郎選手が挑むという図式だった。

大谷選手は骨折による長期欠場明けで、この試合が復帰2戦目。俺は大谷選手に対して「選手に専念するのか、事務方を勉強していくのか、どちらかにしたほうがいい」とコメントしたんだけど、それはこの試合が決まる前で、あくまでも近い将来にそういう選択をする時がくる、という意味だったんだよね。

試合は一進一退の攻防が続き、杉浦選手がターンバックルに向けて投げ捨てジャーマンを放ったところで大谷選手が動かなくなり、レフェリーが試合を止めた。大谷選手は救急搬送され、後に頸髄損傷と診断された。

ZERO1の選手の対応は落ち着いていた

今回のような試合中の事故に対して、さまざまな意見が出ているけど、一番多かったのは「危険な技をやめるべき」という対策案だ。俺も頭から落とすような技は、事故を防ぐという意味では制限したほうがいいと思う。ただ、選手たちは高度な技をやりたいはずだし、受け切れるという自信もある。だからこれは選手というよりも、団体側が制限をかけるしかないんだけど…現実的には難しいと思う。

あとは試合前のメディカルチェックの徹底。コンディションの悪い選手は試合に出さないという対策だね。ただ、これも判断が難しい。確かに今回の大谷選手は欠場から復帰したばかりというのはあったけど、試合前に見た限りではコンディションは悪くなさそうだった。でも試合勘となると、こればかりはやってみないと分からない部分はある。

とはいえ、厳密なメディカルチェックを毎試合、全選手に対して行うとなるとコストもかかるし、出場基準を設けるためにも統一のコミッショナー的な組織が必要となってくる。

俺もかつてプロレスラーのライセンス制度やコミッショナー設立に動いたことがあるけど、なかなかまとまらなかった。事故を防ぐことはプロレス界全体の問題だから、利害を抜きにしてでも大きな団体から率先して動いてくれればと思う。

今回の事故が起こった時、ZERO1の選手たちはみな的確で、落ち着いた対応をしていた。救急搬送のための陣頭指揮を執るなど、指揮系統もしっかりしていて、老舗団体としての強さを感じた。これも大谷選手の功績の1つだと思う。

ZERO1、プロレス界にとって大谷晋二郎選手は必要だ。1日も早い回復を心から願っている。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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