岸田首相が突き進む「自公国路線」落とし穴…蠢く参院選“大惨敗”シナリオ
ロシアによるウクライナ侵攻が激化する中、岸田文雄首相はひたすら「自公国路線」に突き進んでいる。夏の参院選に勝利し、名実ともに本格政権になるためだ。
しかし、原油高や円安、経済の失速など懸案事項は多く、油断すると足元をすくわれることになる!
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「参院選は大変重要な選挙になる。政治の安定のために、ぜひとも協力と力添えをお願いしたい」
岸田首相は4月16日、自民党山形県連の政経セミナーに、わざわざオンラインであいさつを寄せて訴えた。山形市内の会場で聞いていた地元選出の遠藤利明選挙対策委員長も、深々と頭を下げた。
首相が「政治の安定」と強調したのには訳がある。日に日に深刻さを増すロシアのウクライナ侵攻や、収束が見えない新型コロナウイルス感染といった重大案件に、迅速かつ的確に対応するには、まさに政治の安定が必要となる。
首相はそのために、野党である国民民主党(以下、国民)の協力を確かなものにしようと、参院選で山形には公認候補を立てず、同党の現職、舟山康江氏に議席を譲る方針を固め、反発を強める県連に理解と協力を求めたのだ。
遠藤氏は谷垣グループの代表世話人でもあるが、岸田首相が会長を務める岸田派と同じ宏池会を源流としており、遠藤氏はいまや首相の側近の一人だ。首相は2日前の14日、遠藤氏を官邸に呼び寄せ「選対委員長の立場で、お膝元の山形なのに、大変申し訳ない」と詫びた。遠藤氏は「ボコボコにされてきますから」と、逆に首相を気遣った。
自民党から国民の玉木雄一郎代表にアプローチを仕掛けたのは、麻生太郎副総裁だった。麻生氏に近い自民党関係者によると、今年に入って東京都内で玉木氏と密かに会い、同氏が訴えるガソリン高対策のための「トリガー条項」凍結解除の検討や、今回の山形選挙区の件を持ち掛けたという。
国民は昨年12月、衆院憲法審査会の与党協議に、日本維新の会とともに出席。国会を常時開催し、憲法論議を促進していく方針で一致するなど、「与党接近」への素地はあった。
麻生氏によるアプローチは「効果てきめん」(先の関係者)で、会談後には岸田政権への接近に拍車が掛かり、トリガー条項を巡る自民、公明、国民の3党協議を開始。国民は野党でありながら、2022年度予算案に賛成する異例の対応に踏み切った。
当初、トリガー条項の凍結解除に、公明党は難色を示していた。だが、公明党が参院選で議席維持に全力を挙げる兵庫選挙区を巡り、公明党の支持母体と国民を支持する民間労組が「選挙協力」の密約を締結。公明党の現職候補を支援することで手を握ったという。
公明党が凍結解除で足並みをそろえたのは、この直後からだ。
「国民民主党はもはや与党」
この情勢に立憲民主党と共産党は「国民民主党はもはや与党」として、野党共闘の枠組みから事実上排除した。だが、それでも首相を支える岸田派幹部は「国民にはもう2回、踏み絵を踏んでもらう」と話す。「22年度補正予算案に賛成することが1つ、もう1つは内閣不信任決議案を与党とともに否決してほしい」というのだ。前出の岸田派幹部は皮算用する。
「そこまで国民がやってくれれば、かつて民間労組が支援した旧民社党との『自公民路線』の復活と言っていい。参院選後は3党連立もあり得る」
この路線は「岸田首相の方針」であり、すでに閣僚ポストの話も内々に進んでいるという。
首相が、国民の取り込みに力を入れるのはなぜなのか。7月の参院選で勝利を確実にするため、勝敗の行方に直結する32ある1人区での野党共闘に、くさびを打ち込みたいとの思惑があるのは間違いない。
参院選1人区は、過去2回の選挙で自民党はいずれも20勝以上しているものの、共闘の成果もあり10選挙区で野党に負けている。しかし、今回の選挙で、取られる選挙区を5程度に抑えることができれば、定数124議席(非改選を合わせ248議席)のうち、自民党単独で60議席は獲得できるとの計算も成り立つ。
公明党がこれまでと同様に14議席を取れれば、自公で74議席、非改選を合わせれば140議席以上となり、過半数の125議席を大きく超えることになる。
狙いは共闘分断だけではない。首相にしてみれば、ギクシャクしがちな公明党との関係もやっかいだった。そりの合わない山口那津男代表は今夏に70歳を迎えるため、参院選後に石井啓一幹事長と交代するとの見方が出ている。とはいえ国民との関係が強まれば、公明党へのけん制にもなる。
首相は、公明党が4月に入り、今国会中に22年度補正予算案をまとめるよう要求を強めていることに対し、周囲に「また創価学会に言われているのか」と不快感を示しているという。
だが、国民を取り込む最大の理由は別にある。国民を支持する連合傘下の民間労組のうち、自動車総連やUAゼンセン、電機連合、電力総連といった、公称で20万~180万人もの構成員がいる大規模労組を引き込むために他ならない。
国民と3党連立を組んだとしても、議席数は衆院で11、参院は今回が前回並みの5議席なら計10議席。連立に加わらない議員も出るとみられるので、それほど大きな勢力にはならない。
しかし、旧同盟系を中心とする民間労組の支援が得られれば、もともと安全保障を含めて政策も近く、政権の安定感は計り知れないものになる。
小池百合子都知事との連携も可能
さらに、国民が東京選挙区で共闘する地域政党「都民ファーストの会」が、参院選後に国民と合流すれば、小池百合子都知事との連携も可能だ「安倍・菅政権では、安倍晋三元首相と菅義偉前首相との人間関係で、野党の日本維新の会が政権運営に協力していた。岸田首相も独自の『自公国』の枠組みをつくれれば、どこにも気兼ねすることなく政権運営の自由度を高められる」(前出・岸田派幹部)
しかも、大規模労組と小池都知事も味方に付くなら、まさに「鬼に金棒」状態である。
もちろん岸田首相は、自民党最大派閥の安倍派を率いる安倍氏を、敵に回すようなことはしない。ウクライナ情勢への対応は政権の最重要課題であり、米国との太いパイプを維持し、外交・安全保障政策に強い影響力を持つ安倍氏との連携は、今後も不可欠だ。
首相は4月10日夜、都内ホテルのステーキ店で安倍氏と会談した。安倍氏に近い関係者によると、首相は引き続きロシアへの対応と、安保政策での助言を要請。参院選後に内閣改造を行うと耳打ちし、岸信夫防衛相を交代させるとして「後任は安倍派から出してほしい」と伝えた。
内政において自公国路線が確立すれば、首相は中間層育成に重点を置く「新しい資本主義」や、活力を失った地方の発展を図る「デジタル田園都市国家構想」など、自身の経済政策を押し進める考えだという。
これは「アベノミクスの転換」を意味しており、来年春に任期を迎える日本銀行の黒田東彦総裁の交代が視野に入る。首相は「異次元緩和」の「出口」を探っているとみられ、「早ければ秋にも日銀プロパーと交代する」との観測もある。
さらに、首相が参院選後の実施をにらむのは、東京電力福島第一原発の敷地内に保管する大量の処理水の海洋放出だ。
ウクライナ侵攻を受けた原油高とエネルギー需要のひっ迫で、原発再稼働も急務となっている。中でも喫緊の課題は、世界最大級の出力を誇る東電柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働に道筋をつけることだ。
ここに電力総連を引き込む狙いがある。政権幹部は「労組も一丸となって国民世論に訴えれば、処理水放出と柏刈再稼働も実現できる」と期待を込める。
国民は参院選の比例代表で「500万票」獲得を目標とする。組織内候補4人の議席確保を目指すためだが、永田町では「2~3議席がせいぜい」との声が大半で、構成員が相対的に少ない、電力総連の新人候補が落選する可能性が出てくる。
そこで自民党内では、今回の候補が東電出身でもあることから、「自民党から50万票ほど電力に流すことも検討されている」(党選対関係者)という。
岸田首相の野望がどんどん大きくなっている…
宏池会のベテラン議員は話す。「岸田首相の野望がどんどん大きくなっている。関係改善のため中韓歴訪に行きたがっているし、来年のG7サミットは地元・広島での開催を望んでいる。24年秋の自民党総裁選で再選し、25年は夏に衆参同日選を仕掛けたい。憲法改正の国民投票と、トリプル選挙になるかもしれない」
内閣支持率は高く、政権発足当初は誰も予想しなかった順風満帆ぶりだが、本当にこの先、岸田首相が描くようなシナリオで政権運営が進むのだろうか。
首相が描く青写真の前提は、自公国路線が完成することだが、国民が想定以上に失速し、3議席程度しか取れずに惨敗する可能性は否定できない。そうなれば玉木氏の責任が問われるのは必至で、自公国路線は白紙になりかねない。報道各社の世論調査でも、国民の支持率は1%台に低迷したままだ。
失速分を自民党がカバーできればいいが、実のところ不安要素は少なくない。コロナ感染者数はいまだに全国で5万人を超える日があるなど、収束が見通せない。感染者数と内閣支持率は相関関係にあると言われ、より感染力の強い変異株が出現すれば、感染拡大「第7波」の最中に参院選を迎えることになる。
さらに懸念されるのは経済だ。原油高と円安が止まらず、賃金が上がらないまま物価だけが上昇する「悪いインフレ」に陥れば、立ち直りかけた経済が息切れし、生活不安は増大する。
安全保障への不安も尽きない。ロシアが日本への軍事的圧力をさらに強めてきた場合、岸田政権はどう対処するのか。中国や北朝鮮の脅威にもさらされており、対応を誤れば選挙を前に痛恨の失点となりかねない。
先の選対関係者は、これらの懸念材料が参院選に集中したら、「自民党は50議席を割り込んで惨敗する事態もある」と話す。
首相の求心力が低下すれば、安倍氏の発言力が増すのは確実だ。岸田政権が継続したとしても、これまで以上に安倍氏に配慮せざるを得なくなる。
菅氏は党内無派閥グループを束ねつつ、「河野太郎党広報本部長と小泉進次郎前環境相の二枚看板を手元に、今はじっと政局をうかがっている」(菅氏に近い無派閥議員)ようだ。
選対関係者によると、首相サイドは二階俊博元幹事長に対し、今国会中の「電撃引退」を促しているという。参院選の特例として衆院補選も同時に行えるため、「二階氏の和歌山3区への出馬を狙う世耕弘成党参院幹事長を出し抜き、息子に地盤を譲ることができる」からだが、二階氏は政局をにらんでか首を縦に振らないという。
参院選が岸田首相にとっての「天王山」になるのは明白だ。勝てば長期政権が視野に入る。しかし、負ければ、すべては「絵に描いた餅」に終わることになる。まさに正念場だ。
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