社会

“都市伝説”という言葉を世に知らしめた…『新宿書房』に再びメディアが注目!

『新宿書房往来記』(港の人社/3080円)
『新宿書房往来記』(港の人社/3080円)

低迷を続ける出版界で、小規模ながら堅実な活動を続けるのが、1970年創業の新宿書房。その代表を務める村山恒夫氏が、昨年12月に『新宿書房往来記』(港の人社)を出版した。

同書は新宿書房の歩み、村山氏の出版人生、昭和出版史を描いた内容で、本好きや出版関係者などにとってたまらない一冊である。

SNSの普及が伝統的な出版文化を脅かす中、出版界に求められているのは、一冊一冊を丹精込めて作り上げる従来の地道な出版活動にしかない。その事実を同書は無言のうちに訴えかけているのだ。

村山氏は大学卒業後の70年、平凡社に入社して百科事典の編集に携わった後、81年に父の経営する新宿書房に正式入社。ここで編集者としてのノウハウを獲得したが、特に現場でデザイナーや装丁家から「もの作りとしての本」を学んだことが大きかったという。

若い編集の後継者を求む!

村山氏は出版において、私淑していた元新泉社社長の小汀良久氏より伝授された3原則、①「出したい本を出す」、②「残さねばならない本を出す」、③「どこからも出ない本を出す」に加えて、自身の経験を踏まえた「(企画編集中に)これは出していけない本と決断する勇気」という4つの鉄則を信条として掲げる。

新宿書房では、文学、音楽、映画、美術、民族、評論、写真集、実用書など、これまで多岐にわたる本を出版してきたが、その一角を占める重要なジャンルが翻訳書である。

90年代半ばに4タイトルを刊行したアリス・テイラー著『アイルランド物語』シリーズや、日本に〝都市伝説〟という言葉が定着するきっかけとなったJ・H・ブルンヴァン著『消えるヒッチハイカー』は、ロングセラーとなった。

同社最大の課題は、後継者問題。新宿書房を引き継いでくれる若い編集者を探しているが、村山氏自身も引退せず編集に携わっていく方針だ。

関係者は「小出版社ながら魅力的で良質な名著を出している新宿書房は、50年以上の歴史を持つ昔気質の出版社として、今後もその灯りをともし続けていくだろう」と話している。

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