(画像)Harold Escalona / Shutterstock.com
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ロシア崩壊の未来…密かに進むスパイ狩りとプーチン終身刑シナリオ

ウクライナを侵略し、民間人の殺害や凌辱など残虐行為を繰り返すロシア。もはやプーチン大統領の「戦争犯罪」は、法で裁かなければ収まりがつかない状態だ。


ウクライナと西側諸国は足並みをそろえ、ロシアのスパイ網を分断して諜報能力を奪い、国内の不満分子を動かしてプーチン氏の身柄を拘束したうえ、特別法廷に引きずり出すシナリオを練っている。


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ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで、民間人とみられる400人以上の遺体が見つかったほか、東部マリウポリなど各地で虐殺が起きている。住民の避難場所となっていた劇場や赤十字マークを掲げた病院も、ミサイル攻撃などで甚大な被害を受けており、こうした行為はいずれも戦争犯罪に当たる。


ほかにも各地で大量の民間人が殺害されているため、ジェノサイド(民族大量虐殺)に認定されることも考えられる。そもそも他国を武力で侵略すること自体が犯罪で、ロシアの最高指導者として旗を振ったプーチン氏が、容疑者となる可能性は極めて高い。


ロシアの戦争犯罪については、オランダのハーグにある国際刑事裁判所(ICC)が捜査を開始した。ICCの検察官がプーチン氏やロシア軍幹部らの逮捕状を請求し、起訴することも可能だが、量刑には死刑がなく最高刑は終身刑だ。


だが、ロシアはICCに加盟しておらず、現状では逮捕状を持ってロシアに乗り込むことはできない。


「プーチン氏がICC加盟国を訪問した際に、身柄を確保するというのも現実味に乏しく、プーチン体制が盤石である限り、逮捕は難しいのが実情です」(安全保障アナリスト)


つまり、法の裁きを受けさせるにはプーチン体制を内部崩壊させ、プーチン氏の身柄を引き渡すように仕向ける必要があるということだが、ここで気になる動きがある。ウクライナ軍情報部は3月28日、ツイッターで「欧州での犯罪活動に関与したFSB(ロシア連邦保安庁)職員リスト」を公表した。

ロシアのスパイ活動にとって致命傷…

FSBは、対外的な諜報活動を行う組織で、旧ソ連時代のKGB(国家保安委員会)の流れを汲んでおり、世界各国にスパイ網を張り巡らせ、現地で協力者を仕立て上げて情報を引き出してきた。ウクライナ侵攻でも情報収集のほか、戦闘活動にも参加して、市民に対する残虐行為を主導しているとの指摘もある。

ウクライナ軍がインターネット上に公開したリストには、ロシアのエージェント620人の名前、生年月日、電話番号、パスポート番号などが掲載されている。エージェントのリスト流出といえば、スパイ映画の『007』シリーズや『ミッション:インポッシブル』シリーズでもおなじみだが、これだけ具体的な情報がさらされたことは、ロシアのスパイ活動にとって致命傷に等しい。


欧州各国は早々に動きを見せており、スパイリストが公表された翌日の3月29日には、ベルギーがブリュッセルのロシア大使館とアントワープの総領事館の職員計21人に、2週間以内の出国を要請した。続いてオランダも、スパイ活動への関与が疑われるロシア人外交官17人を追放すると発表。さらにはアイルランドが4人、チェコも1人の外交官をそれぞれ国外追放としている。


4月に入るとイタリアが30人、ドイツが40人、フランスが35人の追放を決定。デンマークとスウェーデン、スペインも追放を決めた。リストの公表に先行してエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国やブルガリア、スロバキアも追放しており、約150人のロシア人外交官が赴任先を追われることになった。


スパイが外交官の立場で各国に入り込んでいるのは、公然の事実。日本でも2020年、ソフトバンクの機密情報を元社員が不正に漏洩させた事件で、警視庁は事件後に帰国した在日ロシア通商代表部の元代表代理を書類送検している。この元代表代理はFSBとは別のスパイ組織、ロシア対外情報庁(SVR)に所属しているとみられる。

赤っ恥をかかされた格好のプーチン

ロシア人外交官の追放は、ウクライナ軍のスパイリスト公開に際して、欧州各国が歩調を合わせて決めたと考えるのが自然だ。欧州に潜伏していたスパイが大量に帰国したことで、ロシアの諜報能力が極端に落ちることは避けられない。

「ロシアへの追加制裁やプーチン氏らの訴追に向けて、各国政府の動きをつかむことが極めて難しくなる。確かな情報を得られないということは、ロシアが謀略作戦に振り回されやすくなることを意味します」(前出の安全保障アナリスト)


実は明確な意味を持って、ウクライナ軍はFSBに狙いを定めている。FSBは、KGB出身のプーチン氏に最も近い組織の1つで、今回のウクライナ侵攻でも事前に諜報活動を担っていた。その結果、ロシアが圧倒的に有利とする情報を上げて、プーチン氏が侵攻を決断する大きな材料になったとされる。


ところが、侵攻直後からウクライナ軍の猛烈な抵抗を受けて、ロシア軍は大苦戦を強いられた。赤っ恥をかかされた格好のプーチン氏は、FSBの対外諜報部門トップらを叱責し、自宅軟禁などの処分を断行。作戦失敗の戦犯として矢面に立たされたことで、FSB内部には不満がくすぶっているという。


「ロシア国内は情報が統制されているため、ウクライナ侵攻後、大統領の支持率は下がるどころか上昇している。しかし、海外で活動してきたFSBのエージェントは、ロシアとプーチンの評判が失墜していることや、世界各国からの経済制裁が自国にとって致命傷となること、プーチン体制が続く限りロシアが国際的に孤立したままで、経済制裁が半永久的に終わらないことを痛いほど分かっています」(大手紙外信デスク)


ロシア国内に戻っても不遇の身となりそうなFSBのエージェントだが、彼らは神経剤の「ノビチョク」や放射性物質の「ポロニウム」などを使って、政敵や裏切り者を暗殺するのが得意中の得意だ。

“暗殺”では暗いイメージを払拭することは困難…

「その気になればプーチン暗殺も不可能ではないが、それではロシアの暗いイメージを払拭することは難しい。各国に経済制裁を解除させるには、民主的な体制転換をアピールする必要がある。それには平和的な政権交代を実現させたうえ、プーチン氏の身柄を引き渡し、正式な裁判にかけることが近道です」(前出の安全保障アナリスト)

ICCは19年、コンゴ民主共和国の反政府武装勢力を率い〝ターミネーター〟の異名を取ったボスコ・ヌタガンダ被告に、禁錮30年の判決を下した。民間人の大量殺害や性的暴行、女性の性奴隷化などが罪状で、ICCが言い渡した量刑としては最も重い。


ICCの捜査対象はアフリカ諸国が中心で、ロシアだけでなく実は米国も加盟していないのがネックだった。しかし、米国のバイデン大統領は、プーチン氏を名指しで「戦争犯罪人」と呼び、戦犯を裁く法廷で責任を追及する必要があるとの考えを示している。


さかのぼれば01年、旧ユーゴスラビア紛争で「民族浄化」を進めたスロボダン・ミロシェヴィッチ元大統領が逮捕され、戦争犯罪を裁くために設置された国際戦犯法廷に身柄を送検された。元大統領は被告人となり、ジェノサイドなど人道に対する罪に問われていたが、裁判中の06年に持病の高血圧と心臓疾患が悪化し、64歳で獄中死している。


また、1992年から95年のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中に、セルビア人勢力を指導したラドヴァン・カラジッチ被告は、逃亡を続けた後、08年に逮捕された。同被告は紛争中に各地で発生したボシュニャク人など他民族に対する虐殺、特に7500人以上が殺害されたスレブレニツァの虐殺を指揮したことにより、ジェノサイドの容疑で国際戦犯法廷から訴追され、19年に終身刑の判決が確定した。


これらの例で分かるように、戦犯の逮捕にこぎ着けても、裁判は長期化するのが常だ。プーチン氏も裁判にかけられ、ジェノサイドなどが立証されれば重罪も予想される。現在、69歳のプーチン氏は、どこで最後の時を過ごすのだろうか。