坂口征二(C)週刊実話Web
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坂口征二「人間不信」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”

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1983年6月2日、第1回IWGP決勝におけるアントニオ猪木の舌出し失神事件。今ではこれが「猪木による自作自演」とする説が一般的で、それを裏付ける当時の関係者たちの証言もいくつか見られる。


なぜ猪木が自ら失神を演じたのか、その動機については「世間に対してプロレスのすごさをアピールするため、決勝の大舞台で衝撃的な結末を演出した」「当日、会場に押しかけてきた借金取りから逃れるため」など、さまざまな説が流布しているが、本当のところは猪木自身が語らないことには分からない。


ただ、ぶっちゃけキャラのようにも見える猪木だが、ことプロレスの裏側についてはこれまで一切語ってこなかったので、おそらく今後も真意が明かされることはないだろう。


猪木の自作自演が事実だとしても、そこには1つ大きな疑問が残る。リング外で失神状態だった猪木のそばには、セコンドとして坂口征二がいたのだ。


元柔道の全日本王者であり、68年のメキシコ五輪で柔道が採用されていたなら、坂口は代表選出の可能性も十分にあった。柔道の試合や稽古において、強烈な投げ技や締め技によって選手が失神するケースは多々あるわけで、坂口はそういった場面に何度も遭遇してきたはずである。

失神か演技か…いまだに残る謎

ならば、猪木が本当に失神しているのか演技なのかは、すぐに分かりそうなもの。事実、坂口は猪木が失神していると判断し、舌を巻き込んで気道をふさがないよう木村健吾に、「(猪木の口から)舌を出せ」と怒鳴りつけるように指示している。

なおこの時、テレビ解説席の山本小鉄は、舌を引き出された猪木を見て「危険な状態」と話しているが、それほどまでに、ホーガンのアックスボンバーを食らって場外へ落ちる猪木の様子が、すさまじかったということでもある。また、猪木を応急処置したリングドクターの富家孝氏も、小鉄と同じく「危険な状態」と診断している。


そのような状況にありながら、担架で運び出されるまでの10分ほどの間、ずっと失神したふりをしていたのであれば、猪木の演技力は一流俳優ばり。それよりは猪木が、本当に失神していたと考えるほうが何かと辻褄が合いそうで、実際に瞬間的な脳振とうぐらいは起こしていたのではないか。


いずれにしても会場の蔵前国技館から、救急車で病院に運ばれ即入院となった猪木だが、その日の深夜1時すぎには、呼び寄せた妻・倍賞美津子とともに病院を抜け出した。


ちなみに、その様子を見ていたのは芸能リポーターの梨元勝氏だったそうで、わざわざ梨元氏が張り込んでいたということからも、猪木の失神KOがプロレス界を超えた話題であったことがうかがえる。


梨元氏は当時、これを芸能コラムを連載していた東京スポーツに伝え、同紙の桜井康雄氏から詳細を聞かされた新日プロ営業本部長の新間寿氏が、「さすがにそれはまずい」と、夜が明けるまでに猪木を病院に帰らせたという。

猪木のわがままに散々振り回されて…

そして、失神劇の翌日に出社して事の顛末を知った坂口は、「人間不信」と書き置きして会社を出ると、その足でハワイ行きの航空券を購入して姿をくらますことになる。

坂口は後年のインタビューで「あれは猪木さんというよりも自分自身が情けなくて」と話している。その言葉からすると、猪木が軽症だったことに気付かず会場で慌てふためいてしまったこと、猪木が用意したアングルを見抜けなかったこと、重要なプランを事前に知らされていなかったことなどが推察されよう。


温厚で知られる坂口の激怒エピソードとしては、他にもう1つ、98年6月5日、日本武道館大会の記者会見場で小川直也に殴打された一件がある。


同年に引退した猪木は、小川をエースとした新団体『UFO』の旗揚げを画策。新日との因縁づくりのために送り込まれた小川は「話はついている」と聞かされていたようだが、一方の坂口はこの時点ですでに、明治大学の後輩である小川が、新日所属ではなく猪木の下につくことを不快に思っていた。


そのため「小川と絡んでほしい」という提案を言下に断っていたが、それでも猪木側が小川による談判を強行。さらに、大勢の記者たちがいる前で殴られたことに、坂口はよほど立腹したようで、小川が送ったお中元の品を送り返して絶縁宣言すると、その後は10年以上も小川と口をきくことがなかったという。


猪木のわがままに散々振り回され、耐えてきた坂口にしても、己のプライドを傷付けられることだけは許せなかったことが、二度の激怒エピソードからはうかがえるのである。


《文・脇本深八》
坂口征二 PROFILE●1942年2月17日生まれ。福岡県久留米市出身。身長196センチ、体重125キロ。得意技/アトミック・ドロップ、逆エビ固め、ジャンピング・ニー・アタック。