森永卓郎 (C)週刊実話Web
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目的のない働き方改革の結果は…~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

最近、教え子の卒業生と話していて痛感することがある。それは、転職の動機が激変していることだ。10年前までは、転職は年収を上げるためであり、より大きな規模の企業に移るためのものだった。


ところが、最近はせっかくつかんだ大企業の職場を捨て、ベンチャー企業に転職したり、自ら起業したりする卒業生が圧倒的に増えてきたのだ。


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なぜ、安定した高収入を捨てるのか。彼らは「いまの仕事は楽しくないし、自分の成長が実感できない」と口をそろえる。


私が社会に出た40年前、日本の会社はボトムアップ経営だった。課長になると、実務に関わることが少なくなり、新聞ばかり読んでいた。部長以上は重役出勤で、仕事といえば、会社の戦略決定と対外交渉や業界団体の業務などに限られていた。しかし、だからこそ現場には自由があった。思い付いたことに、とりあえず挑戦してみることができたのだ。


そして、もう1つ大きな違いは、労働時間の自由もあったことだ。私自身の経験は特殊だと思うが、私が20代から30代のときは、平均の月間残業時間は150時間を超えていた。ただ、それだけ働いていても、不満はなかった。残業代がほぼすべて支払われていたこともあるが、一番の理由は、自分が成長している実感があったからだ。


ところが、最近の経営はトップダウンに変わった。その結果として起きた事態は、「報酬」と「仕事の楽しさ」の独占だ。2020年度に1億円以上の報酬を受け取った上場企業の役員は、761人だった。10年前は368人だったから、2倍以上に増えている。そこまで極端ではないが、中高年層の年収も高いままだ。

週休3日制はいつ増える?

一方、若年層の年収は増えないどころか減っている。働き方改革で、残業代が抑えられているからだ。

さらに大きな問題は、経営陣が細かい業務までマニュアル化し、社員を縛るようになったことだ。社員の立場からすれば、マニュアル仕事に創意工夫の余地はないから、仕事が楽しくなくなる。自由度がないのにノルマだけはかけられるから、ストレスがたまってしまうのだ。


それだけではない。こうしたやり方は、仕事の効率も下げていく。


私が長年疑問に思ってきたことは、人工知能やロボットの導入で現場の生産性が急速に上がっているのに、週休3日制が増えないことだ。機械が仕事をしてくれるのなら、人間が遊ぶ時間が増えてもよさそうなのに、実際は仕事が減らない。中高年を中心としてブルシット・ジョブ、すなわちどうでもいい仕事が増えているからだ。


1つだけ私に関する事例を示そう。新聞社のインタビューを受けると、担当記者から確認の原稿が送られてくる。その原稿がよくできていてOKを出すと、それがデスクに回って、訳の分からない修正がなされる。さらにその上司のところに回されると、ますます訳の分からない文章に変わっていく。そんなことが日常茶飯事なのだ。


若手社員の話を聞いても、仕事を進めるうえでの最大の障害は、口を出すだけで仕事をしない中高年だとよく言う。逃げ切りが最善の処世術である経営者と中高年が、若者の挑戦を阻んでいる。日本経済の転落を防ぐ最良の方法は、働き方改革をやめ、若者が自由に働ける環境をつくることではないか。