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日本全国☆釣り行脚~『キチヌ(キビレ)』~高知県高知市/堀川産

キチヌ(キビレ)釣り 
キチヌ(キビレ)釣り (C)週刊実話Web

いいですなぁ、南国は。陽射しが強く感じられますし、朝晩もそれほど寒さに震えず快適にすごせます…。

というわけで、南国土佐は高知市の中心部近くを流れる堀川で竿を出しております。春の頃には両岸の桜並木を目当てに多くの人で賑わうようですが、今はひたすらに静寂であります。そもそもオフィスやビジネスホテルが建ち並ぶ場所を流れる水路ゆえ釣り人の姿などなく、まして桜の時期でもないので夜はほとんど人の気配がありません。でも、こういう場所が実にソソるんですな。いうなれば、高知で遊ぶ際には堺町よりも玉水新地に惹かれるあの感覚…、それに近いかもしれません。

本題に戻りまして、開始早々に仕掛けを切られた後にシマイサキが釣れたところまでが前回のお話でありました。予想通りの魚影にまんざらでもないとはいえ、仕掛けをブチ切った魚が気になって仕方がありません。気合いを入れ直して護岸と桟橋との間を静かに探って行きます。水深が1メートルにも満たない浅場ゆえに、魚が散らないよう〝抜き足差し足〟で動きます。オフィス街の暗闇の中で、泥棒かオレは。

キチヌ(キビレ)釣り
キチヌ(キビレ)釣り (C)週刊実話Web

仕掛けを弛ませ、エサが底を這うようにしてやると「ブルルッ」とマハゼが掛かります。これが結構な頻度で釣れますから、「日中ならのんびりハゼ釣りもいいなぁ…」などと思いながら仕掛けを打ち返します。

夜の街で静かな水路に糸を垂れる…何とも贅沢

それにしても最初のバラシといい、シマイサキといい、そしてハゼの密度といい、その魚影はなかなかのもの。この堀川と暗渠を経て繋がる新堀川はコアマモが自生し、日本三大怪魚のひとつに挙げられる「アカメ」の稚魚の重要な生育場になっているようです。こんな重要な水辺が一時は道路建設のため、すべてが暗渠で塞がれかけたとのこと。桜並木などの目に見えるものは偏愛するのに、水の中の事には無頓着な、人間の身勝手さを象徴しているように感じられてなりません。開発で、街中の自然が消え行くのが普通になっている中、地元有志によって、街中の自然が維持されているのはありがたい限りです。

さて、通りの向こうからはガタゴト…と市電の走る音が聞こえてきます。夜の街に響く、路面電車の古びたモーター音を聞きながら、静かな水路に糸を垂れる。何とも贅沢なひと時です。

そんな耳障りのいい音を聞きつつ、整備された護岸に点在する出っ張りなどのちょっとした変化のある箇所を探ります。するとハゼとは異なる「クンッ!」という力強い手応えが伝わりました。糸を送って「ググンッ!」とさらに引き込んだところで竿を煽ると、激しい抵抗が始まりました。掛かりましたぞ!

「取り逃しはならじ」

桟橋の下へ潜り込まんとする魚を慎重に浮かせると、ライトの光にギラリと反転して再び潜る魚影が見えました。小物狙いの細仕掛けを結んでいたので(弱気)、無理もできず、数回の突っ込みをいなして玉網に納めてひと安心。強い引きの主は35センチ級のキビレでした。

キチヌ(キビレ)
キチヌ (キビレ)(C)週刊実話Web

引きの感触から想像するに、開始早々に仕掛けを切っていったのもおそらくコイツでしょう。大型は50センチに達する魚ですし、小物仕掛けを切るくらいは屁でもありません。

高知といえば外海では数十キロに達するクエやマグロが、河口部でも1メートル近いスズキやアカメが釣れる大物の宝庫ですが、街中の水路で小物釣りを楽しむセコイ釣りが好きなワタクシにとっては、コイツが分相応なのです。高嶺の花より多少の身近さが感じられる相手のほうが、興奮するじゃないですか。もちろん魚の話ですよ。

意外に無臭で地酒が進む旨さ!

ここまで盛んに〝キビレ〟と呼んでおりますが、正式な標準和名は「キチヌ」。クロダイに酷似していて、尾や尻にあるヒレの端が黄色いため〝黄チヌ〟というわけです。

ただ、釣り人や市場関係者の間ではおおむね〝キビレ〟で通っています。

そんなキビレを、今回は刺身でいただきましょう。

キビレの刺身
キビレの刺身 (C)週刊実話Web

街中の水路に徘徊していた個体だけに、少々不安がありましたが…、旨い!

適度な脂乗りが感じられる白身にクセはなく、気がかりだった臭いも感じられません。そして、高知産「吟の夢」を使用した地酒『土佐しらぎく ひやおろし』が魚の旨味をさらに引き立たせてくれます。

そもそも、雑排水の流れ込みなど環境面で不安を感じる場所は、釣りをしていても特有の臭気を感じるもの。しかし、今回はまったく感じられなかったので、期待していたのです。

ということは…、もう少し環境がよくなさそうに見える場所も意外とイケるのでは? ならば、次はもう少し冒険してみようかしら。

三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。

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