橋本真也 (C)週刊実話Web
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橋本真也「破壊なくして創造はなし」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”

重爆キックに袈裟斬りチョップ、相手の脳天をマットに突き刺す垂直落下式DDTなど、豪快なファイトで多くのファンを魅了した橋本真也。


だが、その豪快さは試合だけでなく、私生活においても度々発揮されていたという。


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2000年11月に新日本プロレスを解雇された橋本真也は、新団体『プロレスリングZERO-ONE』を設立した。


「破壊なくして創造はなし。悪しき古きが滅せねば誕生もなし。時代を開く勇者たれ!」


橋本が01年3月の旗揚げ戦、両国国技館大会でのあいさつで放った言葉である。これは橋本の造語と言われているが、意味としては英語の「スクラップ&ビルド」と同義だから、特に目新しいわけではない。


それでも団体名『ZERO-ONE』=「0から1をつくり出す」にぴったりのフレーズであり、さらに「破壊」は橋本のキャッチフレーズ〝破壊王〟にもかかっていて、なかなか考えられた言葉であろう。


ただし、一方では「橋本が当時、好んで視聴していた時代劇やアクションヒーロー活劇を真似ただけで、特に深い意味はない」という意見もある。ちなみに、かの有名な迷セリフ「時は来た!」もまた、時代劇からの転用だったと言われている。

「ガキ大将がそのまま大きくなったようだった」

実際問題としても、橋本が新団体においてプロレスの何を「破壊」したのかといえば、旗揚げ戦で『プロレスリング・ノア』の三沢光晴や『UFO』の小川直也が同じリングに上がったように、それまでに存在した〝団体間の壁〟を破壊したことには違いない。

しかし、試合内容そのものが特に斬新だったわけではなく、何かを「創造」した(もしくは創造する意思があった)とは言い難い。


そもそも橋本自身が、猪木イズムを受け継ぐ「闘魂伝承」を標榜していたのだから、それとも矛盾する。


猪木イズム自体が旧態を破壊するスクラップ&ビルドだと言えなくもないが、それでも「闘魂伝承」となると、「破壊なくして創造はなし」に続くあいさつの言葉「悪しき古きが滅せねば~」に反している。


団体名の『ZERO-ONE』にしても、もともとは新日内部で、橋本のための別組織として用意された『新日本プロレスリングZERO』を改変したものではなかったか。そうなると橋本の発案というよりは、当時の新日で社長を務めていた藤波辰爾の『無我』から、発想した可能性を否定できない。


「橋本に深い考えはなかった」との声が多い理由としては、その性格や人柄もあってのことがある。生前の橋本を知る周囲の人々の多くは、総じて「ガキ大将がそのまま大きくなったようだった」と言う。


今ならパワハラやいじめと問題視されそうな過度のいたずらを好み、後輩たちの多くがその餌食になっていた。しかし、その一方で面倒見もよく、後輩を引き連れて豪遊するのが常だったともいう。

豪快でプロレスラーらしい男

己の欲求にはとことん正直で、食い道楽はあんこ型の体形を見ての通り。酒はさほど飲まなかったようだが、食べることではカネに糸目をつけず、05年に40歳という若さで亡くなったのも、日頃の体調管理を怠っていたことが要因となったとも考えられる。

金銭管理についても大ザルだったようで、後年に自ら立ち上げた『ZERO-ONE』を実質追放される形となったのも、団体の放漫経営で生じた多額の借金によるところが大きかった。


また、女性に関しても奔放そのもの。往時から「某社の女性記者が橋本とデキている」なんて話は頻繁に聞かれ、早世した冬木弘道の未亡人との不倫関係が発覚した際は、業界関係者やファンから一様に非難されることにもなった。


男女の関係は当事者でなければ分からないところがあるとはいえ、長年連れ添った妻に愛想を尽かされ離婚に至ったことからすれば、やはり橋本の振る舞いに非があったと言えそうだ。


しかし、当の橋本は世間の批判に対して、「あんないい女(不倫相手)を放っておくほうが失礼だろう」と何食わぬ様子で、なんなら元妻との関係も並行して続けていくつもりだったというから、とにかく常識外れなのである。


橋本は万事がそんな調子であり、散々迷惑をこうむったはずの周囲の人間でさえ、悪意を持って語ることはほとんどない。むしろ、そのハチャメチャな行動を「橋本ほど豪快でプロレスラーらしい男は、他にいない」と、懐かしむ声が年々増えているような空気すら感じられる。


橋本が存命だったとして、コンプライアンスだなんだとうるさい今の時代に、なお支持を得られるかどうかは分からない。それでも日本のプロレス史において、他に代え難い特別な存在であったことは間違いないであろう。


《文・脇本深八》
橋本真也 PROFILE●1965年7月3日~2005年7月11日。岐阜県土岐市出身。身長183センチ、体重135キロ。得意技/垂直落下式DDT、重爆キック、袈裟斬りチョップ、ジャンピング・エルボー・ドロップ。