笑衝インタビュー! ハリウッドザコシショウ~『普通の生活をして売れるなんて絶対にない!』
「ザコシさんとお呼びしていいですか」という記者の問いに快諾しつつも、「あ、〝コシショウ〟と呼ぶのだけはやめてください。坂上忍がなぜかそう呼ぶんですよ」と、取材開始数秒で仕掛けてきたのは、孤高のピン芸人・ハリウッドザコシショウ。
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1992年に地元・静岡の同級生と大阪NSCに入学、翌年にコンビ芸人としてデビューして以降、解散を経て複数の事務所を渡り歩き、20年以上〝地下〟に生息していた。
転機となったのは2016年、R-1ぐらんぷり(現・R-1グランプリ)。圧倒的得票差での優勝だった。披露したのは、代名詞といえる「誇張しすぎたものまね」。ものまねの枠に収まらないが必ず笑ってしまうその芸の原型は、吉本所属時代の90年代にあった。
ハリウッドザコシショウ(以下、ザコシ)「NSC11期生の同期で仲が良かったケンドーコバヤシと、ユニットコントをやっていたんです。お題に沿ったものまねを交互にやる企画があって、今と比べると正当なものまねだけど、コバヤシに『もっとこうだろ』と突っ込まれるたびオーバーになって。それが最初かもしれません」
ただ、「誇張しすぎた~」という前口上がつくのは、まだまだ先のこと。吉本退社後にワタナベエンターテインメント、フリー時期を経てソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)に所属して単独ライブを開催するようになると、「ものまね50連発」と銘打ち、オーバーなものまねを客前で披露するようになったという。
ザコシ「一応ものまねができるからと、事務所から『フジテレビと日本テレビのものまね番組のオーディションに行って』と言われ、行きましたが、門前払いくらいましたからね。日テレはオーディション担当者が僕を知ってくれているようで、ニコニコ見てくれるんですが、受かることはなかったです」
気に入られないと出してもらえない…
フジテレビにいたっては、「厳しい方がいるんですよ」と、「ハンマーカンマー」でおなじみの古畑任三郎ものまねを披露したその日のことを回顧する。ザコシ「芸人5人並べられて、順番にやらされるんです。めちゃくちゃ恥ずかしかった記憶がありますね。公開処刑ですよ。僕がやっている間、その方はずっと真顔で…、
『どうしてこんなネタをやろうと思ったんだ?』
――い、いやあ…
『キミは何をやっていたんだ?』
――古畑です
『どこが古畑だよ! もういい!』って(笑)」
その方に気に入られないと番組に出してもらえない…と悪態をつきつつも、「古畑のネタは、見たいと思ってくれている人限定のものまね。フラットな人には全くウケないですからね。まあ受かることはないですよ」と、冷静に話す。
一方で、07年放送開始の『あらびき団』(TBS系)には初回から出演、最多出演を誇り「キング・オブ・あらびき」の異名がつくなど重宝された。既存キャラクターに扮しての漫談が主なネタだったが、「限界も感じていた」という。同時期にR-1にも参戦していたが、05年から14年まで、1回戦敗退が3回、2~3回戦進出をさまよっていた。
ザコシ「11年に『あらびき』の地上波放送が終わりネット配信になるタイミングで、『著作権関係でキャラ漫談ができなくなるから、次の展開を考えてほしい』と言われ、単独ライブで評判の良かった『ものまね30連発』のネタをやるようになったら現場でウケたんです。事務所のライブでもウケた。じゃあR-1でもこのスタイルを試してみよう、と」
審査員と客の反応がダイレクトに現れるR-1出場で、削ぎ落とされていったものまねの前口上もある。
ザコシ「ショートコントを付けてやっていた時期もありました。『ショートコント、笑いすぎて圓楽爆発。圓楽でーす! ワハハ! ボカーン!』とかね。それだと〝シュール〟で終わってしまうし笑えないけど、『誇張しすぎた圓楽。ワハハ! ボカーン!』とやると、『んなわけあるか!』というものまね目線だからこそのツッコミが生まれて、一般ウケするんですよ。ほかにも、『やりつくされた○○のものまねをあえてやる』とかもありましたが、『誇張しすぎた○○』のウケの良さの前にどんどん廃れていきました」
「白ブリーフ」から「黒ブリーフ」への転機
そして15年、初めて突き抜けたと自身も体感するほど会場の笑いをかっさらったが、準決勝には届かなかった。ザコシ「めちゃくちゃウケたのに落ちたんです。もう理由が分からなくなってしまって。見ていた芸人に原因を聞くと、『白ブリーフが女性目線だといやらしく映るからですかね? それくらいしかないですね』と分析してくれました。当時、僕の中で、ものまね=タモリさんの形態模写。タモリさんがやる白ブリーフのイグアナの形態模写が好きで、僕も白ブリーフを履いてやっていたんですよ。
でもそれがダメなら、スポーツライクな黒パンツにするか、と。そしたら16年に優勝した。ええやん、ええやん! って感じです」
ついにピン芸人の頂点に上り詰めたのは、42歳のとき。当時の最年長チャンピオンとしても話題となったが、年齢によるプレッシャーは「全くなかった」とあっけらかんと言う。スベって敗退が続いても、チャレンジし続けるモチベーションを保てたのは、自身が置かれた環境にあった。
ザコシ「たとえば毎月厳正なネタ見せがあって、それを通過しないと事務所ライブに出られなくて、出ない芸人はライブの手伝いに駆り出されるようなスゲー厳しい事務所だったら、楽しくはないから。ここまで続けられなかったかもしれません。SMAは失敗した者たちが集まる事務所だし、芸歴に対してそんなに厳しくないし、挨拶がないからって先輩が激ギレして殴ってくることもないですしね」
ただ、そうした環境にぬくぬくと浸かるような芸人だとしたら、「売れるわけがない」と断言する。
ザコシ「売れない芸人なんてね、体たらく・なまける・向上心なし・危機感ゼロ、その寄せ集めですから。普通の生活をしていて、売れるなんて絶対にないです! 僕は身をもって経験しました」
脳裏をよぎるのは、ケンコバをはじめ中川家や陣内智則など、大阪NSC11期生の同期たち。
ザコシ「僕は彼らと同レベルだと思っていたんです。でも、そうじゃなかった。みんな大天才。最初は僕だけが売れない理由を『不運だからだ。あいつらは先輩にもかわいがられているし』と思っていましたが、そうじゃなかったことが吉本を辞めてから分かりました。
特にケンコバはマンガを読む量が半端じゃなく、自然と知識の宝庫になっていて、何を振られても返す力になっている。僕もマンガを読むとはいえ、あいつより読まないし、知識も才能もない。あいつと同じところまで行くには、仕込んで仕込んで仕込みまくってトントンだな、というところに落ち着いた…いや、それでも負けるからね」
寝る間を削って毎日動画投稿
かつて番組共演した際、事前に書いてきた大喜利のメモをケンコバに見られたことがあったという。「なんやこれ、ダセーな」と言われたというが、「それはいいんです。それぞれやり方がありますから」と、めげる言い訳にはしない。ザコシ「R-1で優勝したときに、『40歳で諦めて辞める芸人がいなくなっちゃいますね』と言われたことがあるんです。でもね、普通の生活をしている40歳の芸人が42歳で売れるかと言ったら、絶対に売れないんですよ。相応の準備や訓練をしないと、なし得ないです」
「努力…というのもダセーけど」と言いつつ、文字通り24時間お笑いについて考える日常を淡々と話す。
ザコシ「当時はアメーバブログの動画、今はYouTubeで、10年以上前から毎日動画を投稿しています。今のスケジュールでやるのはけっこうしんどくて、寝る時間を削っています。今日はこのあとラジオをやって、終わったら、事前に動画出演を打診していた共演者を連れて帰って、動画を撮る約束をしています」
3月21日、ダウンタウンの松本人志が《50年近く朝から晩まで笑いのことを考えている人はオレ以外あまり居ないと思います》とツイートしたが、「俺もそのくらい考えてるよ! 松本さんには負けるかもしれませんが」と自負する。
ザコシ「親の看病や自分が病気になった…それでお笑いを辞めるしかなくなったときを想像すると、俺はなんて恵まれているんだろうと。精一杯やりたい気持ちになるじゃないですか。やっと手に入れた〝お笑いで食える〟という今が揺らぐ可能性を思うと、不倫なんてもってのほかです」
堂々とお笑いのことしか考えたくない――そう話す口ぶりに、誇張は一切なかった。
(文/有山千春 企画・撮影/丸山剛史)
ハリウッドザコシショウ 1974年、静岡県出身。高校卒業後に同級生と大阪の吉本総合芸能学院(NSC)に11期生として入学。その後、「G★MENS」としてデビューするも、人気を得られずに相方とともに吉本を退所し上京。2002年にコンビを解散してピン芸人として活動を始め、『あらびき団』(TBS系)や『ドキュメンタル』(Amazonプライム・ビデオ)で人気を博す。
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