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岸田政権は人命より財政を重視~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

政府は3月21日をもって、今年1月から実施されていたまん延防止等重点措置を終了させた。高水準の新規感染者数が続き、病床もひっ迫するなかで、なかば強引に解除に向かった形だ。

感染状況が厳しい東京、大阪、愛知の知事たちは、リバウンドを懸念して解除要請に二の足を踏んでいたが、政府は「新規感染者数が減少傾向にあり、病床使用率や重症病床使用率がおおむね50%を下回ること」としていた従来の解除基準を「両使用率が50%を超えていても、新規感染者数が減少傾向で医療負荷が低下する見込みであれば解除できる」と、解除基準を大幅に緩和した。

この基準の下では、まん延防止等重点措置の延長を求められなかったというのが知事たちの本音だろう。

観光業や飲食業などの我慢は限界に来ていたから、解除しなければ経済的に深刻な事態に陥っていたことは事実だ。ただ、同時に国民の命を守るという観点から見ると、今回の解除には大きな問題がある。

第1波985人、第2波903人、第3波7336人、第4波5905人、第5波3180人、第6波8874人。新型コロナ感染で死亡した人の数だ。すでに第6波は、過去最大の死亡者数を出しており、いまだ高水準の死亡者数が続いている。このままだと死亡者数は1万人を超えるだろう。大規模災害のレベルだ。

もちろん、まん延防止等重点措置を延長したところで、死亡者数を大きく減らせるわけではないだろう。むしろ政府が、オミクロン株の特徴に対応した感染抑制策を採らなかったことが大きな問題なのだ。

岸田首相は感染抑制策に後ろ向き…

厚生労働省は3月16日、新型コロナの濃厚接触者となった場合の自宅待機解除を、これまでの8日目から5日目に短縮した。感染から発症までの時間が短いオミクロン株の場合、4日間発症しなければ感染している可能性が極めて小さいため、こうした規制変更が行われた。

そのことは、コロナ対策としてとても重要だ。国民を一斉に4日間巣ごもりさせれば、感染者数を大幅に減少させることができる。しかし、岸田政権はそうした抑制策を採らない。その理由は、そんなことをしたら莫大な補償を出さなければならなくなるからだ。

岸田政権は、とてつもない財政緊縮に走っている。予算ベースの基礎的財政収支赤字は、21年度補正後が41兆円であるのに対して、22年度は13兆円だ。1年で28兆円も財政を絞ったことになる。

例えば、20年度に国民全員に支給した特別定額給付金の予算は、12兆8000億円だったが、21年度に18歳以下の子どもに10万円相当を配る特別給付金の総額は、1.2兆円と10分の1になった。また、先ごろ白紙に戻したようだが、22年度に年金給付額の減少を穴埋めするため、年金受給者に配布を予定していた臨時特別給付金の予算は、さらに10分の1の1300億円といわれていた。とてつもない勢いで現金給付を絞り込んでいるのだ。

日本銀行の黒田東彦総裁は3月18日の会見で、資源高や円安によって、22年度に消費者物価指数が2%程度になる「悪い物価上昇」の可能性を示唆した。物価上昇で生活に困るのは、現役世代も同じだ。

しかし、財政緊縮に固執する岸田政権は、そうした国民への配慮をいまのところ一切見せていないのだ。

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