継続か撤退か…資源開発「サハリン2」事業に大逆風~企業経済深層レポート
ロシアのウクライナ侵攻に非難が集まる中、西側諸国が経済制裁を強化したことで、日本企業のロシア関連事業にも影響が広がっている。経済産業省の関係者が解説する。
「日本の総合商社は、欧米の大手資本がロシア権益から相次ぎ撤退を表明したことで窮地に立たされています。中でも極東サハリンでの原油・液化天然ガス(LNG)開発事業『サハリン2』に、今後、日本企業が継続して関わっていけるかどうかは大きな問題です」
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サハリン2とは北海道の稚内から約40キロ、ロシアのサハリン島周辺海域での資源開発を目的としたビッグプロジェクト。90年代から総額3兆円が投じられ、ロシアとの軋轢が生じるまでは、同国のガスプロムが50%、英石油大手のシェルが27.5%、日本の三井物産が12.5%、三菱商事が10%出資していた。
サハリン2では年間に約1000万トンの液化天然ガスが生産され、日本はその1割を輸入していた。東京電力や東京ガスと長期契約を結ぶなど、日本のエネルギー源として極めて貴重な役割を果たしつつあった。
では、そもそもサハリン2とは、どんな背景を持つプロジェクトだったのか。
「日本は今でも原油の9割を中東に依存しており、70年代には二度にわたるオイルショックを経験。石油関連商品が高騰し、国内からトイレットペーパーが消え、狂乱物価高が日本を襲った。その恐怖が今も潜在意識にある」(同)
いずれ死活問題…大きな支障になる
日本向け原油タンカーの8割が通過する中東ホルムズ海峡付近で、万が一、戦争が勃発すれば、日本には原油が一滴も入らない。シンガポールのマラッカ海峡や中国が影響力を強める南シナ海で事が起きても、すぐに原油はストップする。「いずれにしろ日本にとっては死活問題で、この不安定な〝中東完全依存型〟から脱却するために、新たなエネルギー政策を模索してきたのです」(同)
そこに浮上したのがサハリン2だ。大手商社の関係者が言う。
「サハリン島周辺の海域には、早くから豊富な地下資源があることが分かっていたが、流氷に閉ざされる期間が長く、なかなか開発を進められなかった。しかし、1991年の旧ソ連崩壊後、ロシアが外国資本と提携し、先端技術を使った資源開発を決断したため、応札方式の開発プロジェクトがスタート。日本は国益を懸けて、サハリン開発事業を進めてきました」
ところが2月28日、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、英シェルがロシア事業からの撤退を表明した。金融系シンクタンクの関係者が言う。
「シェル撤退は日本を驚愕させました。日本がシェルに追随してサハリン2から撤退すれば、欧米は歓迎するでしょう。しかし、日本はエネルギー安全保障上、国家の行く末に大きな支障が出てきます」
しかも、問題はサハリン2だけでは済まないという。
「日本はサハリンにおいて、政府が関わる原油・天然ガス開発事業『サハリン1』にも参画している。サハリン2から撤退した場合、サハリン1も同様に撤退か否かを迫られます」(同)
あからさまな日本威嚇
サハリン1の総事業費は1兆3000億円余り。開発の中心は米石油大手のエクソンモービルで権益比率は30%、日本からは経産省や伊藤忠商事、丸紅などが出資する「サハリン石油ガス開発」が参画し、日本勢だけで30%の権益を有する。「サハリン1でも米エクソンが撤退を表明し、日本政府は頭を抱えている」(同)
こうした事態を受け、エネルギー所轄官庁である経産省の萩生田光一経産相は、ロシアと緊密な関係を維持する中国を念頭に、国会で疑問を呈した。
「撤退がロシアに対する経済制裁になるならいいが、その権益を手放したときに第3国がただちにそれを奪い、ロシアが痛みを感じないなら意味がない」
その一方で、事業の継続に伴うリスクは高まるばかりだ。経済制裁で米英と足並みをそろえる日本に、ロシアは早くも北方四島の経済特区宣言などで圧力を強めている。
また、3月10日から11日にかけて、ロシア海軍のフリゲート艦や補給艦など艦艇10隻が、津軽海峡を太平洋側から日本海に向けて航行。同15日から16日にも戦車揚陸艦4隻が航行するなど、あからさまに日本を威嚇してきた。
「日本が今後、サハリンでの資源開発と経済制裁は別問題だと言っても、ロシアは断固拒否するだろう。ロシアは法律を変えてでも日本からサハリン権益を奪うか、もしくは経済制裁の即時停止を求めてくるはずで、岸田政権が近いうちに厳しい選択を迫られるのは間違いない」(前出・金融系シンクタンク関係者)
日本の財界関係者も不安を隠せない。
「日本はロシアから改めてエネルギー問題を突き付けられている。大半の原発が稼働していない現在、一歩間違えれば日本はブラックアウト(大停電)に陥りかねない。ある意味、経済制裁を受けているロシアより、日本はきつい状況に置かれている」
ウクライナ問題は対岸の火事ではない。まさしく日本の問題である。
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