(画像)Millenius / shutterstock
(画像)Millenius / shutterstock

「北朝鮮」VS「韓国」強硬派のトップ同士が軍事衝突する日…

北朝鮮の金正恩総書記にとって、韓国の保守政権を相手にするのは尹錫悦(ユン・ソギョル)次期大統領(5月10日就任)で三度目となるが、過去の李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権時代には、いずれも軍事衝突が起きている。


【関連】ロシアがたどる“北朝鮮化”の道…核はあるのに食うものがない!ほか

李政権下の2010年11月に発生した「延坪島砲撃事件」では、北朝鮮の砲撃によって韓国軍人2人と民間人2人が死亡。 大統領自身が「武力挑発には応分の代価を支払わせろ」と直接指示し、戦闘機をスクランブル(緊急発進)させたが、米国の説得によって事なきを得た。


朴政権下の15年8月には、金独裁体制を批判したビラの散布や拡声器による宣伝放送に反発した北朝鮮が、韓国本土に砲弾を撃ち込み一触即発の事態に発展。このときは開戦手前で両国ともに冷静さを取り戻し、全面衝突は避けられた。


最近の北朝鮮は、あからさまにミサイル挑発を繰り広げているが、韓国も手をこまねいているばかりではない。韓国政府が昨年8月に発表した22年度の政府予算案を見ると、国防費は前年比4.5%増の55兆2277億ウォン(約5兆3000億円)に達し、23年度には実額で日本を上回る可能性が大きい。


「各種の調査では、韓国人(成人男女)の約70%が核兵器の保有に賛成しており、原子力潜水艦の開発にも約75%の人が賛成しています。日本人と違って、韓国人には核アレルギーがありません」(軍事ライター)


ロシアによるウクライナ侵攻が2月24日に勃発して以来、北朝鮮は弾道ミサイル発射実験の頻度を増している。3月24日には新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)『火星17』を日本の排他的経済水域(EEZ)内に打ち込んだ。これらは明らかにロシアへの側面援助行動だ。

ロシアに恩を売って漁夫の利を得たい…

「3月2日、国連総会はウクライナ侵攻を批判する決議案を圧倒的多数の141カ国の賛成で可決しましたが、反対はロシアとベラルーシ、エリトリア、シリア、北朝鮮の5カ国だけでした。なぜ北朝鮮は、最大の後ろ盾である中国のように棄権しなかったのか。そこにはロシアに恩を売ることで、漁夫の利を得たいという計算が働いているのです」(国際ジャーナリスト)

北朝鮮と対峙する韓国の尹氏は、軍人出身の全斗煥(チョン・ドウファン)や盧泰愚(ノ・テウ)元大統領以上にタカ派、強硬派として知られる。何しろ大統領選挙の期間中に、政府与党を「アカ(共産主義者)攻撃」したほどの思考の持ち主だ。


「尹政権が発足すれば、かつての李、朴保守政権のように再び北朝鮮を〝主敵〟とみなすことになる。尹氏は『平和は対話でもたらされない』と、力による平和維持を一貫して強調しており、北朝鮮には米韓による抑止力の強化で対応するとみられる。また、北朝鮮の人権問題を提起することも公言しています」(同)


では、北朝鮮が狙う漁夫の利とは何か。


「北朝鮮にとってロシアは、サイバー攻撃や武器および部品調達の重要拠点であり、今後も関係が継続することは明らか。しかし、それ以上に重要なことは、北朝鮮が未曽有の経済不況から解き放たれる可能性が見えてきたことです」(韓国ウオッチャー)


正恩氏の執政10年間の軌跡を振り返ると、前半で経済を浮上させたものの、後半ではその成果を見事に食いつぶしたと言える。しかし、ロシアが国際社会から〝ならず者国家〟に認定されたことが、むしろ北朝鮮に好結果をもたらすかもしれないのだ。


「ロシアが国連安保理決議で義務付けられた対北朝鮮制裁決議を無視し、原油輸出を現在よりさらに増加すれば、北朝鮮は慢性的なエネルギー危機から脱出できる。また、国家財政面でも北朝鮮とロシアの貿易がより活発化する。加えて、国連の制裁対象だった北朝鮮人労働者の派遣も再開できるので、外貨獲得への道が開かれるのです」(同)

プーチン大統領の発言で“使える核”に

北朝鮮は「非同盟首脳会議」のメンバーだ。同会議は、外部勢力の介入や干渉に反対すると同時に、一国の独立、主権、領土保全を尊重し、いかなる同盟やブロックにも参加しないというのが建前である。

しかし、北朝鮮がロシアに与して反米ブロックに参加すれば、国際舞台での孤立から解放され、悲願である朝鮮半島の赤化統一に向けて、堂々と〝進軍〟することができる。


「ロシアへの加勢で勢いづく北朝鮮当局が、『ウクライナ侵攻はロシアの勝利で終わる。我々も韓国を攻撃できる』と声高に主張するのは、こうした背景があってのことなのです」(同)


北朝鮮は、ウクライナが核放棄していなければ、ロシアは戦争を仕掛けなかったという教訓を得ており、核兵器を手放さない決意を改めて固めている。


また、ロシアのプーチン大統領が「米欧がウクライナに加担すれば、核使用も辞さない」と発言したことで、「使えない核」が「使える核」に変わった。その結果、北朝鮮は日韓への核の先制攻撃という脅し材料まで手に入れてしまった。


尹氏は米韓同盟の強化、日韓関係の改善を公約に掲げてきた。韓国では米国のバイデン大統領が、日本、米国、オーストラリア、インドによる「Qusd(クアッド)」の首脳会議で訪日する5月に、日米韓の3国首脳会談を開催する案が早くも取り沙汰されている。


ウクライナ情勢を見る限り、米国の権威は失墜した。今後は中国、北朝鮮、ロシアに対する日本の防衛力の真価が問われるだろう。