森永卓郎 (C)週刊実話Web
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リーマン・ショック前夜との酷似~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、原油や小麦の価格が暴騰している。この事態を受けて、日本経済が「スタグフレーション」に陥るのではないかと予測するエコノミストが増えてきた。


スタグフレーションとは、不況とインフレの同時進行のことで、石油危機後のヨーロッパなどで観察された現象だ。


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物価の高騰は、すでに始まっている。2月の「東京都区部の消費者物価指数」は、前年比で1.0%の上昇を示し、日本銀行も来年度の消費者物価上昇率の見通しを1.1%に引き上げた。


一方、賃金のほうは大手自動車会社が春闘で満額回答をしたものの、一般企業は難航している。コロナ禍に加えて原材料高騰のダブルパンチで、ベースアップどころではなくなっているのだ。そのため、実質賃金がマイナスに陥るのは確実だ。


また、4月から公的年金支給額が0.4%引き下げられる。現役世代も高齢世代も実質所得が大きく減少するのだから、景気が失速することは避けられない。


その兆候は早くも出ており、2月における東京都の「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」は、前年同月比で0.6%下落している。つまり原油など国際取引商品の値上がりで、表面的にインフレが進行しているように見えるが、実のところ国内はデフレになっているのだ。


そうした中で、非常に気になることがある。いまの状況が2008年9月のリーマン・ショック前夜と、非常によく似ているのだ。例えば、政府は輸入小麦を4月~9月期に民間へ売り渡す価格を17.3%引き上げると発表した。これは過去二番目の高さとなるが、最高値を記録したのは08年10月~09年3月期だった。売り渡し価格は直近6カ月の調達価格によって決まるため、リーマン・ショック直前が小麦の最高値だったことになる。

戦争終結後にバブル崩壊か…

3月8日にWTI原油価格は124ドルの高値を付けたが、08年7月3日にも145ドルと最高値を付けている。ただ、原油価格は、その5カ月後には4分の1に下がっている。

株価も同じだ。07年12月26日に1万3552ドルの最高値を付けた株価は、翌年には4割も下落している。世間では、あまり認識されていないが、リーマン・ショック前は4年以上続く株価や商品価格のバブルが生じていた。リーマン・ショックが、その崩壊のきっかけをつくったのだ。


今年2月のアメリカの消費者物価は7.9%上昇と、40年ぶりの高さになっている。ウクライナの戦争が終結すれば、アメリカはインフレ抑制のための金融引き締めに出る。そうなれば、いま起きているバブルが崩壊する可能性が高まるだろう。


結果、日本経済を強烈なデフレが襲う。それを避けるためには、大規模な景気対策が必要になるのだが、岸田政権は緊縮路線を鮮明にしている。例えば、岸田総理はリフレ派の日銀・片岡剛士審議委員の退任を内定し、後任にタカ派の高田創氏を充てるなど金融引き締めへの態勢を着々と整えている。


基礎的財政収支赤字も、21年度補正後予算の41兆円から、22年度予算では13兆円に激減させている。不況下における財政金融同時引き締めは、恐慌を招くだけだ。かつて濱口雄幸首相は、デフレ下で財政金融同時引き締めを断行して「昭和恐慌」を招いた。悲劇は繰り返されるのか。