政府の自粛要請はいつ出るのか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

新型コロナウイルスの新規陽性者数が過去最多を更新する中で、政府自らは営業自粛要請や県を越える移動の自粛を言い出さない。それどころか、GoToキャンペーンを中止にせず、むしろ感染拡大の背中を押している。政府が感染抑制策に後ろ向きになる理由は、新型コロナの重症化率や死亡率が大幅に下がっているからだろう。

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厚生労働省の発表によると、感染第2波に突入した7月15日時点の死亡率は4.4%だったが、11月18日には1.5%と、ほぼ3分の1に下がっている。新型コロナウイルス自体が弱毒化したのか、それとも経験を積んだ医療界が治療を進化させているのかは、よく分からない。しかし、過去最多の新規感染者を出していながら、まだ医療崩壊が起きていないのは事実だ。ただし、死亡率が3分の1に下がったと言っても、感染者数が3倍になれば、死亡者数は同数になる。

問題は、どこで医療崩壊が起きるのかということだ。 東京都は12月2日、GoToトラベルの都内発着分を巡り、重症化リスクの高い65歳以上の高齢者と基礎疾患がある人への利用自粛要請を正式決定した。翌日の3日には、大阪府が独自の判断基準「大阪モデル」で最も深刻な〝赤信号〟を初めて点灯し、15日まで外出自粛を要請する方針を固めた。

国民が行動を変えられれば、感染拡大ペースを遅らせることは十分に可能だし、非常事態を回避することも可能になる。ただ、私は国民行動の劇的な変化は、今のところ期待できないと思う。政府が本気で対策をとろうとしていないからだ。

今年は歴史上初めての“巣ごもり年末年始”かも…

菅義偉総理は11月21日になって、ようやくGoToキャンペーンの一部見直しの方針を明らかにした。例えば、GoToトラベルについては、感染拡大地域を「目的地」にする旅行を一時的に中止するというものだ。しかし、これでは感染拡大を止められない。

そもそも感染第3波は、10月1日に東京都がGoToトラベルに加わったことで始まった。それまで横ばいが続いていた新規陽性者数が、東京都が加わった2週間後から急拡大。実際の感染から陽性の報告がなされるまで、約2週間のタイムラグがあるので、東京都がキャンペーンに加わった途端に感染急拡大が生じていることになる。

今回の見直しで、東京都への旅行が対象から外れるかと思われたが、結局は前述のような〝限定措置〟だ。もちろん、国民の意識は多少変わるだろうが…。

今年の年末年始は、歴史上初めて巣ごもりの年末年始になるのではないか。ただ、もともと休みの人が多い時期なので、巣ごもりが経済に与える影響は他の時期より小さいだろう。政府がそれを狙って、緩いブレーキを踏んでいるわけではないと思うのだが…。