芸能

『ウェディング・ハイ』/3月12日より全国公開中〜やくみつる☆シネマ小言主義

Ⓒ2022「ウェディング・ハイ」製作委員会

『ウェディング・ハイ』

脚本/バカリズム 監督/大九明子
出演/篠原涼子、中村倫也、関水渚、岩田剛典、向井理、高橋克実ほか
主題歌/東京スカパラダイスオーケストラ
配給/松竹

バカリズムの1人ネタは、まず外すことがありませんよね。

誰とも似ていない、あのフリップ芸の切り口。そんな笑いの鬼才の完全オリジナル脚本の映画ということで、期待値をかなり上げて見てしまいました。

本作は、結婚披露宴という誰もが経験しているシチュエーションコメディー。同様の分野では、伊丹十三監督の『お葬式』、三谷幸喜監督の『ラヂオの時間』などの名作があります。本作でも、笑いの小ネタをちりばめて、ずっと笑わせ続けてくれるんじゃないかと期待しました。

「NO」を言わないウェディングプランナーの篠原涼子がチームを率いて、次々と起きるトラブルや出席者の勝手な要望をクリアしていく後半は、テンポよく進むんです。

ただ、そこにいくまでの前半が、やや説明的に感じました。カップルの出会いから、それぞれの家族や友人関係まで登場人物が多いので、混乱しないようにとの配慮なんですかね。

脇を固める配役まで贅沢

あの天才の脚本で、なぜ笑いが少ないと感じるのか、その原因を考えました。

まず、前回ご紹介した上田慎一郎監督の脚本による『永遠の1分。』にも通じることですが、何よりも「劇中劇」にあたる部分が物足りない。新郎の後輩・中尾明慶が作った、渾身の「ロシア映画」風の余興VTRや、高橋克実の笑いを取りすぎる主賓挨拶。バカリズムならフル尺に近く仕込めるでしょうに、肝心の内容が省略されています。映画の中の来賓たちは、それを見て笑ったり泣いたりしているのに、我々観客を笑わせてもらえないジレンマ。

それから、全編を通してさまざまな登場人物の独白中心で話が進んでいきます。基本、独白というのは、ボソボソと声を潜めますよね。これが喜劇のハチャメチャ感をそぐというか、全体のテンションを低くしてしまう。さらに、登場人物が脳内の声で会話する場面が多々出てくるのですが、これがテレビのバラエティーで見かけるような分割画面。いろんなアングルでカット割りして、立体的に見せるのが映画ではないのか。安易な分割演出は、映画館の大画面で見るのはキツイか。

新郎新婦の中村倫也、関水渚はもちろん、片桐はいり、尾美としのり、六角精児、向井理など、脇を固める配役まで贅沢なだけに残念です。

さて、自分も披露宴でスピーチを頼まれることはままあります。名を知られた出席者が自分だけという場合は特に、サービス精神で作り込みます。狙ったポイントでウケると、この高橋克実のように心の中でガッツポーズを決めてますね。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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