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短期集中連載『色街のいま』最終回「沖縄・真栄原と吉原」~ノンフィクション作家・八木澤高明

(画像)tutae / Shutterstock.com

今年のはじめ、全国よりひと足先に新型コロナウイルスの第6波に襲われた沖縄。3月1日の段階で、1日に1000人を超える感染者を出していて、一向に収まる気配は見えない。沖縄で新型コロナウイルスが蔓延した理由について、テレビや新聞は、在日米軍が広めたように報道していた。

実際、コロナが広がりはじめた頃、玉城デニー知事は会見で「県内にオミクロン株の感染拡大が米軍由来であるとの意識が欠如していると言わざるを得ない」とコメント。

あたかも、米軍基地でコロナが蔓延していると印象付けるコメントだった。さらに補足すると、米軍基地から日本人などの基地従業員に飛び火し、市中に流出。感染の種が撒かれたとも述べている。

これらのコメントを読む限り、悪者はすべて米軍のような印象を受ける。実際に私もそう思っていたが、10年以上の付き合いのある沖縄在住の松尾さんというタクシードライバーは、米軍犯人説に異論を唱えた。ちなみに、松尾さんはベースタクシーの運転手として米兵を客としていたこともあり、米兵の遊ぶ場所や風俗店などの情報を持つ。

「米兵たちが行くところというのは、限られていますからね。北谷か、コザのゲート前。風俗店なら辻のソープランドですけど、彼らを受け入れているのは2軒ぐらいしかありません。僕にとって長年のお客さんだったから、肩を持つわけではないですけど、彼らがコロナを広めたとは思っていません。昨年10月に緊急事態宣言が解除されて、今年の正月の国際通りなどは、東京とかからの観光客がとにかく多かったんです。基地から感染が始まったというより、東京から持ち込まれたと考えるのが自然な気がします」

沖縄は観光業で成り立つ島だ。そのため、観光客を悪者にするわけにはいかず、米兵は格好のスケープゴートだったということか。

コロナが蔓延する状況の中、色街はどのようになっているのだろうか。さらに松尾さんに話を聞いた。

「表立ってやっている風俗街といえば、辻のソープランドか前島のピンサロ街、栄町になると思います。まず辻に関して、コロナ前だとキャッチがいて、ソープランド、マンションの一発屋、マッサージからのヌキなど、値段と要望に合わせて案内していましたが、最近ではお客さんが減ってしまい、キャッチも少なくなったようです。特に、前島のピンサロは大打撃を被り、もう半分ぐらいは潰れたんじゃないでしょうか。栄町のちょんの間は、まだ2軒か3軒営業していますが」

営業停止はトラブル多発が原因…

全国的に色街が壊滅的な打撃を受けているなか、沖縄を代表する色街であった真栄原にも復活の兆しは見られず、街は闇に包まれたままだという。そして、真栄原と並ぶちょんの間街として知られていた吉原については、今もこっそりと営業を続けているという。

「吉原は2006年に摘発があったあと、全部のちょんの間が閉鎖されました。その後、マッサージ店が数店ほど営業を始めましたが、そこでは表立って売春は行われていません。ですが、今も10軒ぐらい売春を行っている店はあります。地元の男しか利用していませんが、店と電話でやりとりして開けてもらったり、少しだけドアを開けているのです。週末になると遊びに来る客が結構いて、営業する店の前を行き来しているんです。ドアが開くとすぐ客がついてしまうので、待っているんです」

完全に営業していない真栄原と、今もこっそりと営業を続ける吉原。この違いはなんなのだろうか。

「実際に市長から話を聞いたわけではないですが、それは、市の方針の違いじゃないでしょうか。真栄原のある宜野湾の市長は一切認めないという方針を取っていて、吉原のある沖縄市は、性犯罪が増えるからちょんの間はあったほうがいいという考えのようです」

スタンスに違いが出るのは、真栄原の店に女性とのトラブルが絶えなかったこともあるという。

「05年の摘発で真栄原は潰れましたが、その前に働いていた女性が店とトラブルを起こして裸で交番に逃げこんだりしたことがありました。あと、内地のホストクラブとかで女の子を借金漬けにして、その返済のために真栄原で働かせるということとか。それに比べると、地元の女性が多い吉原で、そういったトラブルは聞いたことがありません」

かつて吉原で働いていたという、典子という女性に話を聞いた。シングルマザーだという彼女は20年ほど前に吉原で働き、今もかつて働いていた店は営業を続けているという。

「真栄原に比べて吉原は年齢層も高くて、30代から40代で地元の女性が多かったんです。それが、真栄原が潰れてから若い子が流れてきて、がらっと街の雰囲気が変わったんです。それで見過ごせなくなって潰されたと聞いています。だから、こっそりやっているのは許してくれているんじゃないでしょうか。今、働いている子は、20代の子もいます。コロナが流行っていても我慢できない男の人は多いので、かなり忙しいみたいです」

沖縄の風俗の灯は、今もかろうじて残っている。男たちの欲望、そして生き抜くために体を売る女たちの願望は、コロナであっても消せはしないのだ。

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。

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