日本の「居酒屋文化」が長引くコロナ禍で消滅の危機に瀕している。その背景を業界紙記者が解説してくれた。
「東京商工リサーチが2月16日に公表した『大手居酒屋チェーン』店舗数調査によると、上場主要14社の運営店舗数は、2019年時点の7200店から21年末には5844店と、1356店も減少してしまったのです」
新型コロナウイルスの感染拡大から2年間で、約2割の店舗が閉鎖されたことになる。しかも、今なお減少の勢いは止まらない。
「昨年10月に『緊急事態宣言』が全面解除され、わずかに安堵の空気が広まったものの、それもつかの間でした。今年に入ってからはオミクロン株の大爆発で、居酒屋は再び制限を受けることになった。どの店でも閑古鳥が鳴き、一向に底が見えない状況が続いています」(同)
では、大手居酒屋は具体的に、どれほど店舗数を減らしたのか。
最大手のワタミ(東京都大田区)は3月14日、『ミライザカ』など国内の居酒屋約270店舗のうち、不採算店と見込んだ約40店を22年内に閉店すると発表した。フードアナリストが言う。
「ワタミは底力があるので、継続店舗の一部を焼き肉店、寿司店に業態転換している。また、それもかなわない店舗については、宅配事業に転換する構想もあるようだ」
では、他の大手居酒屋はどうか。コロナ前と比べ、最も減少率が大きかったのは『金の蔵』などを運営するSANKO MARKETING FOODS(東京都新宿区)で、111店(19年)あった店舗が54店(21年6月)に半減した。
『笑笑』『白木屋』などを展開するモンテローザ(東京都武蔵野市)も、昨年初めに都内337店舗のうち、61店舗の大量閉店を決めて大きな話題を呼んだ。
仕事帰りの“ちょいと一杯”も皆無
ただし、店舗数の激減にもかかわらず倒産件数が少ないのは、コロナの協力金があるからだという。
実際、大手居酒屋チェーン8社が、21年度に自治体から受け取った休業・時短営業の協力金は、現時点での合計が約340億円に上り、8社の売上高の4割近くに相当することが分かった。
それでも苦境に立つ居酒屋業界だが、今後の見通しはどうなのか。大手居酒屋の関係者が言う。
「問題は協力金が途絶えるコロナ後です。居酒屋チェーンの場合、コロナ前は賃料が高くても、人の往来の激しい駅前や繁華街に店を構えていた。忘年会や新年会、歓送迎会などの宴会が、売り上げの中心でした」
しかし、コロナによって時代は変わり、会社は飲み会の自粛を求め、加えて社員はテレワークで都市部から足が遠のいた。今や仕事帰りの〝ちょいと一杯〟も皆無となり、利益の4割近くを占めていた会社需要が一気に吹き飛んだ。
「この流れはコロナが収束した後も、元に戻るとは思えません」(同)
前述のワタミが従来の居酒屋から大きく方向転換したのは、今後、コロナ前に100%戻らないと確信したからだという。
「たとえコロナが収束しても、以前の7割回復が目いっぱいというワタミの見方は的確でしょう。テレワークの浸透で、働き方そのものが大きく変わると見込んでいるからです。新たな方向性を模索せず、旧態依然としたままの居酒屋は絶滅するでしょう」(同)
飲む場は居酒屋とは限らない
一方、経営コンサルタントはこうも分析する。
「数年前から日本人の酒の飲み方が、微妙に変わってきた。それが、さらに進むとみています」
1つめは、慣例としての宴席そのものが減りつつあること。上司と部下、あるいは同僚同士の親睦を深めるための、いわゆる「飲みニケーション」と呼ばれた日本独特の宴席は、もはや絶滅したに等しい。
「昔は上司や仲間の誘いがあれば、簡単には断りづらかった。今は自分のタイミングが合わなければ、断るのが当たり前です」(同)
2つめは、飲む場が必ずしも居酒屋でなくなりつつあることだ。
「かねてより牛丼大手の『吉野家』では〝吉呑み〟と称し、つまみメニューを充実させて人気を集めている。最近はリーズナブルな『ちょい飲み』をファミレスからラーメン店、回転寿司店などが次々と展開し、大ヒットしている。飲む側がコスト重視に変わりつつあるのです」(同)
3つめは、酒を飲まない人が増えていることだ。
若い世代を中心にノンアルコールが大流行しており、キリンビールの調査によると、ノンアル商品は09年比で20年は433%と伸びている。日本人の酒量も、ピーク時の92年は1人当たり年間101リットルだが、19年は78リットルまで落ちている(国税庁調査)。
居酒屋店主がつぶやく。
「店を始めて30年、客と一緒に泣いて笑って助けられてきた。今はたまに客が来ても、黙食黙飲で寂しい限り。でも、居酒屋は人と人がつながる場、最後の1人になっても守り抜きたい」
アフターコロナの時代を待つまでもなく、居酒屋文化に危機が訪れていることは確かだ。
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