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永田裕志「ゼア!」〜一度は使ってみたい“プロレスの言霊”

永田裕志 
永田裕志 (C)週刊実話Web

何度かの路線変更はありながらも大きな故障や長期欠場もなく、今年でデビュー30周年を迎える永田裕志。

4月に54歳となる今も、元気に戦い続けるその姿には「無事これ名馬」の言葉がぴたりと当てはまる。

今年4月16日、新日本プロレスがアメリカでの開催を予定しているビッグマッチにおいて、日本人参加選手のトップに永田裕志がラインアップされた。

永田は昨年、米国のメジャー団体AEWのテレビマッチでIWGP USヘビー級王者のジョン・モクスリーとタイトル戦を行っており、その経験を買われての起用であろう。

超ベテランの永田が、現在もトップ戦線で戦い続けていることは称賛に値する。ちなみに、同一団体で30年以上も戦い続けた選手としては、全日本プロレスの渕正信が1974年のデビューなので、そろそろ50年にもなるが、さすがに近年は年に数試合出場のセミリタイアに近い状態ではある。

新日の現役では、天山広吉が永田よりも年齢は下だが入団は1年早く、今年でデビュー31年目。2020年に引退した獣神サンダー・ライガーが36年間、19年に引退した飯塚高史が33年間の在籍だから、決して永田のキャリアだけが特別なわけではない。

それでもトップクラスの選手としては、珍しく長期欠場がない点は特筆すべきであろう。長年の激闘による故障を抱えているはずだが、アマチュア時代からの豊富な練習量のたまものだろう。今もなお試合に際しては、しっかりコンディションを整えてきて若手に引けを取らない動きを披露するのだから、まさにレスラーのかがみである。

永田の「心の強さ」とは…

デビュー3年目にUWFインターナショナルとの対抗戦に出場して以降、ずっと何かしらのストーリーに絡み続けていることを考えれば、今後これに比肩する選手はなかなか現れそうにない。

しかも永田の場合、決して順風満帆なレスラー人生ではなかったことも驚愕に値する。

Uインターとの対抗戦の頃には期待の新星として将来を嘱望され、IWGPヘビー級王座を10連続防衛したときには「ミスターIWGP」と呼ばれたりもした。しかし、その一方で総合格闘技戦での二度の惨敗(01年はミルコ・クロコップ、03年はエメリヤーエンコ・ヒョードル)により、プロレスファンから〝新日凋落のA級戦犯〟と強く批判されたこともあった。

これほど毀誉褒貶の激しいプロレス人生を送っていながら、それでも戦い続けてきたのだから、永田は精神力においても人並み外れたものがある。

そして、こうした永田の「心の強さ」を支えてきたのは、徹底した「プロ意識の高さ」あるいは「サービス精神の旺盛さ」ではなかったか。

永田がツイッター投稿の締めなどにも使っている決めゼリフ「ゼア!」について、本人は「敬礼ポーズの際の掛け声」と説明しているが、そもそもの話でいえば、その敬礼ポーズも「会場を見渡す姿」を意識して始めたものだった。

自身で考案した決めポーズが本来とは違う受け取られ方をした場合、並の選手ならそれを否定するか、ポーズそのものを封印してしまいそうなものだが、永田は堂々と「敬礼ポーズ」として続けている。

プライドよりも“観客ウケ”優先

また、現在ではすっかりコミカルなパフォーマンスとして認知されている「白目」も、実は笑わせようとして始めたわけではない。06年の東京ドーム大会で永田が対戦した村上和成は、一部ファンから〝顔芸〟と揶揄されるほど鬼気迫る表情が特徴的な選手であり、それに対抗すべく披露したのが「白目」だったのだ。

試合自体は、総合格闘技風のパンチや蹴りを繰り出す村上に対して、永田も強烈な顔面蹴りを食らわせるなどシビアな展開となった。しかし、永田が腕関節を極めたときの〝鬼の形相=白目〟がドームのオーロラビジョンに大写しになると、観客席は失笑に包まれた。

おそらくこれは、永田にすればまったく予想外のことであり、自分なりの「必死の顔」を笑われたことは、少なからずショックだったに違いない。しかし、永田は以後も、観客から嘲笑されることを承知で「白目」を披露し続けた。自身のプライドよりも「観客ウケ」を優先した格好である。

一時期、名物となっていた『ワールドプロレスリング』のテーマ曲に合わせて踊る「ナガダンス」にしても、永田自身は『G1クライマックス』に限定した東京スポーツの紙上企画のつもりであった。そのため、ほかの試合では「あまりやりたくない」とまで語っていたものだが、これが発表された11年からしばらくは、観客の求めに応じて披露していた。

大体において、大みそかの総合格闘技戦に敗れた直後の1・4東京ドーム大会は、肉体的にも精神的にもダメージが計り知れない。その中で永田は、02年に秋山準とメインイベントで戦い、04年には佐々木健介と大流血戦を演じている。

普通の選手なら欠場するのは当然のこと、そのまま引退となっても不思議ではない〝事件〟である。それでも戦い続けてきたというのだから、永田の精神的タフさは歴代プロレスラーでナンバーワンといっても過言ではないだろう。

《文・脇本深八》

永田裕志
PROFILE●1968年4月24日生まれ。千葉県東金市出身。身長183センチ、体重108キロ。得意技/バックドロップ・ホールド、エクスプロイダー・オブ・ジャスティス。

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