森永卓郎 (C)週刊実話Web
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アメリカの考えるロシアの代償とは~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

アメリカのバイデン大統領は2月26日に公開されたネット番組で、ウクライナ戦略について「選択肢は2つある。ロシアと戦争して第三次世界大戦を起こすか、国際法を犯した国にその代償を払わせるかだ」と語った。


もちろん、第三次世界大戦という選択肢はあり得ないから、アメリカはロシアに「侵攻」という国際法違反の代償を支払わせる構えだ。


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その代償とは何か。


ウクライナ全土への侵攻を始めたロシアのプーチン大統領にとって、最大の誤算は首都キエフの陥落に予想外の時間を要していることだ。ウクライナの軍事基地や空港を巡航ミサイルで攻撃し、同国の制空権を得たと主張するロシアは、すぐにキエフを陥落させるとみられていた。


ところが、ウクライナ軍と市民が、予想外の抵抗をした。ウクライナのゼレンスキー大統領は市民に自動小銃を配り、火炎瓶の作り方を指南して、徹底抗戦を呼びかけたのだ。


かつてナチス・ドイツがフランスを占領したとき、一番手を焼いたのが、フランス国民が行ったレジスタンス運動だった。軍人だけでなく、市民全体を敵に回すと、簡単に支配ができなくなるのだ。そうした中、プーチン大統領は、ウクライナ軍にクーデターを呼びかけたが、ウクライナ軍は応じなかった。


しかも、ドイツがウクライナに対して、小型の地対空ミサイルの支援を表明し、アメリカも3億5000万ドル(約400億円)の武器供与を決定した。戦闘が長引く可能性が、高まってきたのだ。戦闘が長引けば、ロシア兵の人的被害も拡大するから、ロシア国内でプーチン大統領への批判が高まることになる。

「高みの見物戦略」が招くアメリカ自身の崩壊

さらに、欧州とアメリカはロシアの主要銀行をSWIF(国際銀行間通信協会)から排除することを決めた。これによって、ロシアは輸出入代金の決済が困難になる。もちろん中国という抜け穴があるので、国際取引ができなくなるわけではないが、ロシアと西側の貿易が大幅に制限されることになり、今後、ロシア経済はじわじわと追い詰められていく。

また、制裁の対象にはロシア中央銀行が含まれており、中央銀行がルーブルを買い支えられなくなれば、さらなる暴落が発生する。そうなると、ロシア国内の輸入品価格が上昇し、高いインフレによって国民生活が疲弊することで、プーチン政権の支持率低下に結びついていく。これがバイデン大統領の言う「代償を支払わせる」ということの中身なのだろう。


ただ、私には、この「高みの見物戦略」が正しいとはどうしても思えない。なぜなら、戦争が長引けば、そこで多くの人命や財産が失われていき、米国経済や世界経済にとっても、厳しい結果を突き付けられることになるからだ。


長期戦に伴うエネルギー価格の上昇を通じて、世界中にインフレがもたらされる。特にアメリカは、すでに消費者物価指数が7.5%上昇しており、高いインフレを収束させるため大幅な金利引き上げに追い込まれるだろう。そうなったら、ドルに為替を固定している途上国も追随を余儀なくされ、景気が失速して、アメリカのバブルが崩壊するリスクも高まる。


バイデン大統領は、プーチン大統領の説得を続けるべきだったのではないだろうか。