『天外者』/12月11日(金)より全国ロードショー~やくみつる☆シネマ小言主義

『天外者』 監督/田中光敏 出演/三浦春馬、三浦翔平、西川貴教、森永悠希、森川葵、迫田孝也、宅間孝行、丸山智己、徳重聡、榎木孝明、筒井真理子、内田朝陽、八木優希、ロバート・アンダーソン、かたせ梨乃、蓮佛美沙子、生瀬勝久 配給/ギグリーボックス

まずもっての大前提として、本作を見るにあたり、主人公の五代友厚を演じる三浦春馬がもはやこの世にいないということを考えちゃいけません。いつ頃、撮影完了したのかは存じませんが、彼の死と本作は関係ないこと。頭から追いやって見れば、友情あり、悲恋あり、盟友の死ありの、みずみずしい青春群像劇です。

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これまでも映画やテレビで描かれることの多かった幕末から明治初期。この激動の時代を彩る坂本龍馬や岩崎弥太郎、伊藤博文などを一堂に会させるフィクションも、手法としてはままあるものですが、三浦翔平や西川貴教など、脇を固めるキャストの新鮮さと相まって生き生きと描かれます。

そして主人公の五代友厚。薩摩藩士から明治政府の役人を経て実業家に転身し、商都・大阪の礎を築いた人物ですが、長らく歴史に埋もれていました。自分も、朝ドラでディーン・フジオカが演じた「五代様」で初めて知り、多少予備知識があったので、すんなり入っていけました。

タイトルの『天外者』は鹿児島弁で〝てんがらもん〟と読み、壮絶な才能の持ち主という褒め言葉だそうです。

近代日本の夜明けに際して、「金も名誉もいらん」と志高く、誰もが夢を持てる国を造らんと奔走する姿を見ていると、全く先の見えない現代にこんなリーダーがいたらと思わずにいられません。

三浦春馬・享年30 短命なるがゆえの「伝説」化

さて、最後までストーリーを堪能した後、あえて今一度呼び覚ますのが、三浦春馬はもういないという事実です。これが、製作サイドの意図しない「味」になってしまったことは、やはり否めません。盟友・龍馬の暗殺死、恋人の芸妓・はるの病死に「なぜだ」と涙し、それでも極めて前向きに生き抜こうとする主人公を骨太に演じきり、まさにこれからという時に、自ら命を絶ってしまった。どうしてそんなファンを裏切るようなことをという憤りと、これからの春馬を見たかったという無念が幾重にも畳み掛けてきます。三浦春馬・享年30。短命なるがゆえの「伝説」化、人々の記憶への刻まれ方は、まるでジェームス・ディーンのようです。

さて、この映画、開国と尊王の対立も描かれますが、あれだけ刀に固執した武士たちが、維新後、あまりに早く時代の変化に順応し、あっさり帯刀を捨てていったのにはあらためて驚きます。仮に時代が激変しても、例えば今のアメリカ人が銃を手放すとは到底思えません。