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短期集中連載『色街のいま』第10回「東京・上野/御徒町」~ノンフィクション作家・八木澤高明

(画像)Sukanlaya Karnpakdee / Shutterstock.com

上野といえば、東北地方の玄関口として知られるJR上野駅から5分もかからない場所にある「風俗マンション」が、風俗好きの間では知られる街だ。

1990年代後半から2000年代初頭、そのマンションには本番させる違法風俗店が密集し、一時は100店舗以上が営業していたことから、そのマンションは「上野の九龍城」とも呼ばれていた。

私がそのマンションの存在を知ったのは、すでに違法風俗店のほとんどは摘発に遭い、多くの店が営業していなかった頃のことだ。それでもタイ人や中国人女性に売春させる店が数軒ほど営業していた。

そんな、かつては違法風俗店が密集していた上野・御徒町周辺の現在の状況はどうなっているのか。このコロナ禍でさらに数を減らしたのか、それともしぶとく生き抜いているのか。

2月に入って訪ねてみたが、アメ横は緊急事態宣言明けの昨年末に比べて、かなり人出が減っていた。あれほどいた外国人観光客の姿も、当然ながら、ない。コロナが街に暗い影を落としていることは、目に見えて明らかだった。

この日、私はある男性に街の案内をお願いしていた。10年ほど前から上野や御徒町の違法風俗店に通い続けている、中津(仮名)という50代の男性だ。彼は今から20年ほど前に中国で暮らしていたことから中国語に堪能で、中国人女性が働く現地や日本の風俗の事情に詳しい。彼は昨年に胃がんを患い、胃のほとんどを摘出する手術を受けたのだが、退院した3日後には風俗街に足を運んだというほどの風俗好きで、現在も週に一度、都内のデリヘルを中心に遊び続けている。

「肋骨の下から、かなり長い手術痕があるのですが、それが目立ってしまうのがちょっと恥ずかしいですね。いつ再発するか分からないので、遊べるうちに遊んでおこうと思っています」

まさに、命を削りながら遊んでいる中津の情報は、傾聴に値するだろう。このコロナ禍で上野界隈の風俗店にはどんな影響が現れているのだろうか。

「中国系の風俗店は、店で働いている女の子は語学学校などに通う留学生が多かったんです。彼女たちによって中国系風俗は支えられていたと言えるでしょう。ところが、コロナが流行りだした一昨年の3月ぐらいから、女の子の多くが中国に帰ってしまい、なかなか戻れなくなりました。働き手がいなくなったところに流れてきたのが、タイ人やベトナム人などです。彼女たちは技能実習生だった子が多いですね。コロナで仕事がなくなったり、薄給でもっと稼ぎたいという思いから風俗業界で働きだしたのです。現在の上野周辺は、どの店も女の子の確保が大変だと聞きます」

“一番のお客”は日本に暮らすインド人

実際に中津の案内で中国系の風俗店が入っているというマンションに向かった。そこはJR御徒町駅から歩いて10分ほどの距離にある、表には看板など出ていない、一見すると普通のマンションだった。周囲には雑居ビルやマンション、学校も目と鼻の先にあるため、風俗店の許可が下りないエリアだ。こんな場所にと、驚かざるを得なかった。

「ここのマンションにある店は、お客さんが来る限り、深夜だろうが早朝だろうが営業しています。女の子がいれば、いつでも遊べるんです。本番はできませんが、20代の女の子が手と口でサービスしてくれますよ」

このマンションでは、なぜ違法な「24時間営業」ができるのだろうか。

「マンションのオーナーが中国人なんです。風俗店も3軒ほど入っていて、それ以外にも中国人が経営する会社が入っています。なので、日本というよりは、中国そのものという状況なんです。今後、このような形態の風俗店は増えていくかもしれませんね」

その店で働いていた、中津がいつも指名している女性に話を聞くことができた。コロナ前に来日した彼女は、帰国することなく、日本で働き続けているという。コロナ禍で仕事にどんな変化があっただろうか。

「女の子が半分ぐらいになってしまいました。今は5人ぐらいが働いています。女の子が少ないと人気がある子にお客さんが集中するので、指名を断りながら、他の子に回してたりして、平均して稼いでもらうようにしています。このオミクロンでお客さんは少し減りましたが、緊急事態宣言が開けてからは多かったですよ。コロナは、大きな影響はないと思いました」

彼女はさらに、この地域ならではの客層についても教えてくれた。

「ここで一番のお客さんは、日本人じゃなくて、インド人なんです。遊び方がすごくて、中国人のお金持ちみたいです。女の子を2、3人つけて、マッサージさせるんです。チップも弾んでくれるので、女の子にも人気なんです」

それは、日本に暮らすインド人だという。

「御徒町の周りには、宝石や貴金属を扱う店が多いんですけど、そこの経営者はインド人であることが多いんです。コロナでも、仕事に影響があまり出ていないようなんですね。みんな心に不安を感じているから、金の値段は上がったりしているので、景気はいいみたいです」

外国人が主役となりつつある上野・御徒町の風俗。これからも、規制の網やコロナ禍をかいくぐり、違法風俗店はしぶとく生き残っていくことだろう。

八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。

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