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蝶野正洋『黒の履歴書』~北京オリンピックとドーピング問題

蝶野正洋 
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

北京オリンピックが閉幕した。

俺は最初、あまり積極的にテレビ観戦をしていなかったんだけど、スマホを見ていると「メダル獲得!」とか、オリンピックのニュースがどんどん来るから、最後のほうは結果が気になる競技も増えてきた。

そう考えるとオリンピックを伝えるメディアもテレビだけではなくなってきているし、観戦する側もさまざまなスタイルで情報を得る時代になったと実感したよ。

ただ、競技そのものよりも話題になってしまったのが、女子フィギュアスケートのワリエワ選手のドーピング問題だ。ワリエワ選手は、ショートプログラムで金メダル確実と称賛されるほどの演技を見せたあと、ドーピング疑惑が発覚。ルールでは資格停止処分になるんだけど、まだ15歳で「要保護者」にあたるということで、暫定的にフリーに出場することとなった。

ドーピング検査をしたのが去年の12月。その結果がこのタイミングで判明するというのは、何か陰謀のようなものを感じる。これに限らず、今回のオリンピックは怪しいことが多くて、ロシアも開催国の中国も、IOCも何か企んでいそうな気配があるんだよね。

ワリエワ選手は確信犯的にドーピングしていたのかもしれないし、誰かに陥れられた可能性もある。本人よりも、周囲のコーチや大人たちが悪いという意見も多かった。でも、一番悪いというか、闇が深いのはロシアという国そのものだよ。

俺はロシアがまだソビエト連邦だった頃に、モスクワでプロレスの試合をしたことがある。流れとしては、1989年に新日本プロレスが初めて東京ドームで開催することになり、その目玉としてソ連のアマチュアスポーツの猛者たちを「レッドブル軍団」として参戦させたのが始まり。その年の大晦日に今度は新日本プロレスがモスクワに遠征することになり、俺も参加した。

選手やコーチのプレッシャーは計り知れない

当時のモスクワは、街の雰囲気は暗いし、物資も足りていないのかスーパーに行っても棚がスカスカだった。新日本に参戦したレッドブル軍団の中には、日本で電化製品をたっぷり買って帰った輸入業者のような選手もいたけど、これなら仕方ないなと思ったね。現地ではスポーツ界の大物にも会ったけど、みんなマフィアのような雰囲気だった。これは俺の印象だけど、あの頃の政治とスポーツ界、それに裏社会は、みんな繋がっていたんじゃないかな。

30年前の話だけど、ロシアにはいまだにその体制が残っているのかもしれない。だから国としてオリンピックに対する意気込みが違うし、メダルを獲るということに対する思いも違う。選手やコーチ陣にかかるプレッシャーは計り知れないよ。

オリンピックはアマチュアスポーツの祭典で、クリーンでなきゃいけないという幻想を抱いているのは日本人くらい。政治が介入してはいけないというのはあくまでも建前で、オリンピックを使って国威を発揚し、世界に存在をアピールしようと考えている国も多い。

だからこそ、今回のドーピング問題も各国の政治的・経済的な対立や、緊張の高まっているウクライナ情勢とも無関係ではない。

ただそこで犠牲になるのは、純粋に競技に打ち込んでいる選手たち。残念だけど、真に平和的で国同士の利害を超越したオリンピックというのは存在しないね。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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