木下ほうか (C)週刊実話Web 
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俳優・木下ほうか『西成ゴローの四億円』公開記念インタビュー

――大阪出身の木下さんですが、映画『西成ゴローの四億円』の舞台・西成にはどんなイメージをお持ちでしたか?


木下ほうか(以下、木下)「西成って、ここ数年で大きく変わったんです。あいりん地区も様変わりしましたし。僕が子供の頃は、日雇い労働者が集まり、ヤクザの事務所が密集しているというのが一般的なイメージ。中高生のときに怖いもの見たさみたいな感覚で行ったこともあるけど、通称三角公園で焚き火をしながら博打をやっている人たちの姿が印象的でしたね。そんな場所だったから、映画を撮るなんて御法度でした」


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――それは、なぜですか?


木下「単純に撮影許可が下りないのが1つ。それから撮影を始めると妨害が入るという問題もありました。縄張りを主張する勢力が、『挨拶に来い』みたいなことを言い出すんです」


――いわゆる反社会勢力?


木下「そうですね。縄張りと言っても、実態はどうなっているのか不明なんですけど。それは西成だけじゃなく、歌舞伎町などの繁華街でも似たようなことはあったはずです。ただ、それも過去の話。そういう意味では、この映画で描かれている西成は少し前の時代を思い出させてくれるんです。観ていただければ、懐かしい昭和の下町の匂いも味わっていただけると思います。今どきのスタイリッシュさとは真逆の、泥臭い魅力に溢れた映画ですから」


――監督の上西雄大さんとは、2017年の『ひとくず』からの付き合いです。


木下「正直、あの作品があそこまで大きく評価してもらえるとは想像していなかったです。なにしろ1年以上も上映が続いたり、ファンクラブができたり、異常事態と言ってもいいくらいで。僕もこの仕事を長いことやっていますけど、そんな話は聞いたことがないですよ。それはやっぱり彼の発しているメッセージが残酷さとか暴力性だけじゃなくて、もっと幅広い層から支持される内容だからだと思う。今回の作品も単なるアウトロー映画というよりは、男の世界の中で正義感や親子愛を問うような内容になっていますし」

趣味においても死を感じたい…

――撮影現場の雰囲気は?

木下「上西作品でユニークなのは、撮影現場で話し合いが頻繁に行われ、それで内容が変わっていく点なんです。今回の作品では僕と監督と加藤雅也の3人で『もっとこうしたほうがいいんじゃないか』と侃々諤々の議論を戦わせていましたね。もちろん、それは互いの信頼関係があってこそ成り立つことなんですけど」


――撮影中、臨機応変に作品内容が変化していったということですか。


木下「本来、映画の撮影現場というのはシナリオがあって、監督からは細かい指示が出て、役者はそれを受け入れるという流れ。でも、こういった上西さんのやり方は、他の作品でも取り入れたほうがいいと反省しましたね。なんの疑問も持たず言われたままこなしているだけだと、作品にいい変化が生まれないですし」


――現在、木下さんは58歳。『ガキ帝国』でのデビューから42年が経ちました。仕事への取り組み方は、若い頃とどう変わりました?


木下「いまだに全然慣れないですね、役を演じるということは。『あれ? どうやってやるんだっけ?』と戸惑うことばかりです。そもそもこの仕事は何の保障もないし、不安定な要素が多すぎますから。そのへんは定年退職まで頑張るサラリーマンの方とは考え方が少し違うかもしれない。僕の場合、特に若い頃は趣味が仕事だったんですよ。作品の中で演じることが好きで、それでたまたまお金をもらい生活していたというパターン。アルバイトをしながら役者を続ける若者は今も昔もいるけど、この年齢になるとそれも現実的に厳しいかなとは感じているんですけどね」


――今の木下さんは、バイク、キックボクシング、空手、献血など多趣味なことで知られています。


木下「ある時点で気付いたんですよ。『趣味=仕事』という考え方でやっていると、精神的なバランスが取れなくなるなって。ときにはプレッシャーから逃れることも必要だけど、その逃げ場がないというのはしんどいですから」


――とはいえ、趣味が持てないことに悩んでいる高齢の方が多いのも事実です。


木下「うん、そこは『どうやって年を重ねるか?』、『どうやって死を迎えるか?』という話にも繋がってくると思う。今は長寿社会と言われているじゃないですか。人生百年時代とかね。でも、そんなの僕から言わせたら恐怖でしかないですよ。これから30年くらい生きるかもしれないんだと想像すると、ゾッとします。あと2年で僕は60歳になるけど、おそらく70歳を過ぎる頃には体も動かなくなっているはずなんですね。だったら体が言うことを聞いてくれる今のうちに、やれることをやっておきたいなというのが僕の趣味に対する考えなんですよ」


――なるほど。バイクや格闘技を高齢になって続けるのは大変でしょうからね。


木下「キックボクシングやバイクというのは、どこかで死のイメージと隣り合わせなんです。結局、そういう危険な要素に惹かれているんだと思いますよ。逆にゴルフとか釣りみたいに死にそうにないものは興味がまったく持てないですし。つい最近もバンジージャンプをする機会があったんですけど、『最高! もっと高いところから飛びたい』と感じましたからね。普段からいつ死んでもいいと考えて生きているし、趣味においても死を感じさせるものを追い求めてしまうんです。僕の場合はレースや格闘技の試合にも出ているから、なおさら死が実感しやすいんですけど」

最大級の関心事は子孫を残すこと

――練習だけじゃなく、試合にも出ているんですか?

木下「もちろん会社には無許可で出ました。『試合に出たい』なんて言っても、『危ないからやめろ』って一笑に付されるのが関の山でしょうから(笑)。それにどのタイミングでも撮影はなにかしら入っているから、そこに穴を開けるわけにいかないですしね。こんな向こう見ずな僕を見て、『なんでわざわざそんな危ないことをするの?』という声も当然あるでしょう。でも、しょうがないんですよ。死が自分にとって最大の関心事なんだから。独身だから好き勝手できるということもあるんでしょうけど」


――逆に言うと、妻や子供に縛られたくないから結婚しないという話では?


木下「う~ん、それは少し違うかもしれないな。確かに僕はこの年まで独身でやってきたし、それは自分が好きで選んだ道なんですけど、人類として生まれてきた以上、子孫を残さないとマズいだろうという考えも同時に持っているんです。結婚…というか自分の子孫を残すことは、僕にとって最大級の関心事。これまであまり口に出していなかったけど、ずっと継続して考えていることなんですよ。人間って矛盾をはらんだ生き物じゃないですか。どこかで常に死を意識している。趣味も危険なもので、独身だからこそ好き勝手ができる。でも、どこかで自分の子孫を残さないといけないなと考えている。こうした自分の矛盾と向き合いながら、それでも進んでいくのが人生かもしれませんね」


――最後に、今後のキャリアをどのように築いていきたいとお考えですか?


木下「僕は昔から物事を悪い方向にしか考えられない性分で。だから、仕事に対しても人生に対しても過度な期待はしない。『どうせ上手くいかないだろう』と諦めの境地でいて、たまたま上手くいったらラッキーというのが基本姿勢」


――それは自分が傷つくのが怖いから?


木下「その通りです。これまで僕は右に左にブレながら、後悔したりもしつつ、58年間生きてきました。でも結局、いまだにどの道に進めばいいのか分からないことばかり。18歳の頃と何も変わっていないのかな、とも感じるんです。そう考えると、おそらくこれからも変わりようがない。自分の矛盾を抱えながら、それでも前に進んでいくしかないんでしょうね。でも、進むからには全力で突き進んでやろうとは考えています」
木下ほうか(きのした・ほうか) 1964年、大阪府出身。16歳のとき、映画『ガキ帝国』で俳優デビュー。大学卒業後、吉本新喜劇の団員となるも3年で退団。その後はVシネマ、テレビ、映画に活躍の場を移し、近年はドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)に出演し注目を集めるなど、現在人気バイプレイヤーの1人に数えられている。
『西成ゴローの四億円』、『西成ゴローの四億円-死闘篇-』は新宿K'sシネマほか全国順次ロードショー。 監督・脚本・プロデューサー・主演◎上西雄大 製作総指揮◎奥山和由 出演◎津田寛治、山崎真実、奥田瑛二ほか 配給◎吉本興業、チームオクヤマ、シネメディア