アントニオ猪木 (C)週刊実話Web
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アントニオ猪木「ボルトを1本締め忘れていたようです」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”

モハメド・アリ戦の実現をはじめプロレスラーとして夢を追い続けてきたアントニオ猪木だが、リング外でもその姿勢は変わらなかった。いくら失敗しても懲りることなく、世界平和や環境問題の解決など男のロマンを希求し続けた。


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2020年10月31日、アントニオ猪木は横浜市内で水プラズマの公開実験を行い、アルミニウムの角材を瞬時に蒸発させることに成功した。


水プラズマとは、水から発生する最大2万度の高熱により、あらゆるものを瞬時に蒸発させて水素に変える技術のことで、これを使えば二酸化炭素を発生させずにゴミ処理することが可能になるという。


猪木はフィリピンの「スモーキーマウンテン」と称されるゴミ集積場を例示して、水プラズマによる世界の環境問題解決を宣言した。


この技術を開発したのは九州大学の渡辺隆行教授。事業としては株式会社ヘリックスが進めていて、猪木はこれの宣伝役、アンバサダーとして関わったものと思われる。


実験結果に、猪木は「これは100点でしょう。ムッフフフ…」と満足げだったが、そもそも猪木が関わる新技術や発明という話になると、どうしても「アントン・ハイセル」や「永久電機」の大失敗を思い浮かべてしまう人も多いだろう。


猪木にとって第2の故郷であるブラジルで、「環境破壊の原因となっているサトウキビの搾りかすから、牛の飼料を作り出す」ことを目指したアントン・ハイセルは、猪木の手を離れた後にようやく事業化の目途が立ったとも伝えられる。


つまり、事業の方向性としては大きく間違っていなかったわけだ。

大々的な会見するも投資詐欺の看板に!

失敗の要因としては、同時期にブラジルで起きた急激なインフレの影響があり、また、研究段階から多額の費用をつぎ込んでしまったこともマイナスに作用した。猪木のカネを目当てにした悪徳業者たちが寄ってきて、まだ必要のない段階からブラジルで大型工場が建設されるといったケースも多々あり、それを鵜呑みにしてカネを出してしまう猪木の悪い意味での寛大さが仇になってしまった。

そんなアントン・ハイセルに輪をかけてひどかったのが永久電機であった。猪木に「磁力を使った永久機関の開発」の話を持ち掛けた人物は、のちに詐欺容疑で逮捕されている。


簡単に言うなら、猪木は「開発資金として大金をむしり取られた」うえに「猪木が開発に関わっている」として、投資詐欺の看板にされていたのだ。


そんなこととはつゆ知らず、猪木は2002年3月12日、永久電機の完成発表会見を都内の高級ホテルで大々的に行ってしまう。


おそらく会見用に作られた粗末な代物だったのだろう。猪木が作動スイッチを押しても何やら機械音がするだけで、発電機に接続された電光掲示板はまったく光らない。猪木が何度か叩いても、発電機に闘魂が注入されることはなかった。


そして、引きつったような笑顔で「どうやらボルトを1本締め忘れていたようです」と話した猪木。「調整して再度会見を開く」とは言ったものの、その後に完成したとの報はない。


ここまで大恥をかかされれば、普通なら愛想を尽かしそうなものだが、そうならないのだからボルトが1本抜けているのは猪木のほうか。

「詐欺師ほどおもしろくて夢を与えてくれる」

その後も猪木は「世界の貧困層に電気を届ける」との崇高な理念から、1回起動すると3~4年は動き続けるという超効率エンジン発電機の開発に資金を注ぎ込み続けた。

ようやく猪木自身が「あれは失敗だった」と認めた頃には、当時、猪木をモチーフとしてヒットしていたパチンコ機やパチスロ機の数億円に及ぶ版権料のほとんどや新日本プロレス株の売却益までもがすっかり消え、スポンサー筋からの借金が残っていたという。


このような失敗から、猪木に商才がないと見る向きは多いだろう。実際にビジネスとして成功した例がないのだから、その評価も仕方のないところだが、発想自体は猪木自身も自負するように時代の先を行くものがあった。


70年代には『アントン・トレーディング』という貿易会社を設立し、今では日本で当たり前に使われているタバスコを早いうちから輸入販売。ほかにもマテ茶やアントン・ナッツ(ひまわりの種)などの健康食品を扱っていた(新規事業の資金にするため売却)。


また、インターナショナル・スクールの経営も手掛けており、いずれも今の時代から見れば「ちゃんとやれば儲かりそう」なことばかりだ。


しかし、そうした儲かりそうなことよりも、確実性が低い「夢」に向かってしまうのが猪木の特性で、夢のある話の周囲には、往々にして詐欺師やそれに類する人間が多いものである。


猪木自身もそれを自覚しているようで、後年のインタビューでは「詐欺師ほどおもしろくて夢を与えてくれる」と話している。


これはまったく自虐などではなく、猪木の本音に近い言葉ではなかったか。
アントニオ猪木 PROFILE●1943年2月20日生まれ。神奈川県横浜市出身。身長191センチ、体重110キロ。得意技/卍固め、延髄斬り、ジャーマン・スープレックス・ホールド。