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岸田政権“視界”不良…安倍元首相に「政権支えて」苦渋の懇願!

岸田文雄 (C)週刊実話Web

「死者がどんどん増えているじゃないか。このままでは政権が持たないぞ」岸田文雄首相の腹心、木原誠二官房副長官が首相官邸の執務室で声を張り上げた。

官邸では毎朝、厚生労働省が新型コロナウイルスの感染状況などをまとめた一枚紙の日報が配布されるが、2月4日、全国の死者数がついに100人を超え、22日には322人となって過去最多を更新したのだ。

危機感を募らせたのは木原氏だけではない。当然のことながら岸田首相も焦りの色を濃くしていた。コロナ対策を先手、先手で打ち出してきたつもりだったが、オミクロン株の急速な感染拡大にまったく追いつくことができないのだ。

ワクチンの3回目接種は遅れ、実施できたのは2月15日現在で1300万人と、全対象者の10%にとどまる。検査キットは足りず、濃厚接触者の取り扱いはクルクルと変わり、全国の医療現場で混乱を招いた。期待の米ファイザー製経口治療薬は10日にようやく特別承認されたが、欧米諸国から大きく遅れた。

6日夜に公邸で開かれた関係閣僚会議で、ついに首相は「何もかもが遅い」といら立ちを爆発させた。菅前政権と同じく対応が後手、後手になっているのは明らかだった。

政権の失点はコロナ対応だけではない。「佐渡島の金山」の世界文化遺産への推薦を巡っても混乱を生んだ。新規登録を目指すなら、2月1日が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦書を提出する期限だったが、韓国が「韓半島出身者が強制労働させられた現場だ」として批判を強めていたため、政府は見送る方向で検討に入った。

しかし、自民党内の保守系議員が「日本の名誉に関わる問題」(高市早苗政調会長)などと連日のように政府対応を批判。期限が迫った1月26日夜、安倍晋三元首相が電話で「見送ると保守派が離反する」と迫ると、政権の安定が最優先の岸田首相に選択肢は残っていなかった。28日、首相はあっさりと方針転換し、推薦する考えを表明した。

公明党との不協和音が大きくなってきたのも誤算だ。夏の参院選での相互推薦を巡る協議が進まず、公明党が不信感を募らせたのだ。3月13日投開票の石川県知事選の調整に失敗し、保守分裂選挙の見込みになったのも政権への痛手となった。

こうした状況に内閣支持率は、NHKが1月の57%から2月は54%、読売新聞が66%から58%になるなど、軒並み低下。マスコミの論調も「聞くだけ」「無策」などと、厳しいものが目立つようになってきた。

霞が関の主導権争いも激しくなって…

順風満帆かに見えた岸田政権に、急に逆風が吹き始めたのはなぜなのか。自民党岸田派の幹部が話す。

「厚労省がコロナ対応で伏魔殿と化している。霞が関の主導権争いも激しくなってきた。官邸チームが十分に機能していないからだ。二階俊博元幹事長に比べて茂木敏充幹事長は実力で劣り、党側の支えが弱い」

官邸は、本来なら官房長官と事務を含めた3人の官房副長官を軸に政権を支えていく。安倍政権時代は当時の菅義偉官房長官を要に、盤石の体制を敷いていた。

しかし、現在の松野博一官房長官は生真面目で線が細く、政権を支える大番頭のイメージからはほど遠い。岸田派ではなく安倍派所属のために「外様」感も否めない。

事務の副長官には元警察庁長官の栗生俊一氏が就いたが、これは同じ警察出身の杉田和博前副長官の「ごり押し人事」(首相周辺)。そもそも警察庁長官就任が「想定外だった」と言われており、早々と副長官としての能力に疑問符を付けられた。

結果として、岸田派所属で首相最側近の木原氏の負担が増すことになったが、官邸の切り盛りは望むべくもなく、財務省出身とはいえ、衆院当選5回で閣僚経験のない木原氏の「限界が露呈した」(同)のが、官邸の現状なのだ。

厚労省の伏魔殿化には、こうした背景がある。ワクチン接種の2回目と3回目の間隔について、世界では6カ月が大勢の中、「8カ月」で譲ろうとせず、先行しようとした自治体には、「他と足並みをそろえるように」とブレーキをかけた。

全国で病床使用率に余裕があるように見えるのも、持病のある高齢者でも軽症なら自宅療養とするよう、全国の保健所を差配しているからだ。

堀内詔子ワクチン担当相への「いじめ」も徹底しており、「所掌ではない」として重要な情報を上げないため、堀内氏は首相に「もう国会で答弁できません」と泣きついたという。

霞が関の主導権争いはどうか。政権の看板政策である経済安全保障と新しい資本主義、デジタル田園都市構想は、いずれも経済産業省が事務局を握ってきた。だが、ここにきて経済安保の事務方トップのポストを財務省が奪い取ったのだ。

経産省出身の藤井敏彦・経済安保法制準備室長が2月9日、「闇バイト」や朝日新聞女性記者との「不倫」を理由に更迭。後任に財務省出身の泉恒有内閣審議官が就いた人事がそれだ。

闇バイトは、民間の経済塾で長年にわたり講師をしていたというものだが、政府関係者によると「情報を入手した財務省が公安調査庁にリークした」という。

茂木幹事長の求心力は一向に高まらず…

朝日記者は40代で、故・二階堂進自民党幹事長の孫とされる。かつて二階堂氏の秘書を務めた鹿児島出身の森山裕・前自民党国対委員長とも「親しい関係」で、森山氏の後継候補として話が進んでいたというが、頓挫すれば身から出たさびと言うしかない。

主導権争いはまだある。経済安保政策の総合調整は国家安全保障局が担うが、同局を取り仕切る外務省が「米国の意向」を振りかざして法案作成に関与。米国が求める機密漏えい時の懲役規定をねじ込ませた。

新資本主義の構想づくりでは、推進本部長の木原氏を通じて、出身母体の財務省が「経産省色」が強まらないよう、動きをけん制。デジタルでも、総務省が昨年11月、事務次官を実務のトップとする独自の推進会議を設置し、経産省の「省益」拡大に目を光らせる。

こうした中、せめて党側に力があれば霞が関を抑えられるが、「傲慢な性格」が災いしてか、茂木氏の党内での求心力は一向に高まらず、指導力を発揮できていない。

岸田派幹部は、佐渡金山問題などを挙げ「安倍氏や高市氏らはやりたい放題だ。二階氏なら『首相の方針を支持する』と言えば、誰も歯向かえなかった。茂木氏には重みがないから、党がまとまらない」と嘆く。

「結果として多くの案件で首相に最終判断をさせてしまっている。責任を負うのは首相なので、政権が揺さぶられるリスクが高まる」(前出・岸田派幹部)

幹部によると「岸田首相は安倍氏の動向を、これまで以上に気にするようになった」という。

「ここが正念場」と踏む岸田首相は、どのようにして巻き返しを図るのか。

動いたのは、岸田政権発足の立役者の1人となったものの、衆院選小選挙区での敗北で失脚し、しばらく鳴りを潜めていた甘利明前幹事長だ。

2月4日、自身のツイッターに、コロナ経口治療薬を開発中の塩野義製薬から臨床試験の報告を受けたとして、「効能は他を圧している。石橋をたたいても渡らない厚労省を督促中だ」と投稿し、特例的な承認に向けて圧力を掛けた。

首相も後に続いた。1日当たりの接種回数の表明については、「現場を混乱させる」との厚労省の意見を踏まえて控えていた。

しかし、接種の遅れに業を煮やした首相は、6日の関係閣僚会議で、後藤茂之厚労相らに「もう待てない。『2月中に100万回接種を目指す』と言う」と明言。衆院予算委員会で表明したところ、5日後の14日、早くも100万回を超えた。

米国から依然として重要視されている安倍元首相

官邸チームのテコ入れも急いだ。首相は、栗生氏に代わり、経産事務次官を務めた大物首相秘書官の嶋田隆氏を実質的な事務の副長官として、チームを再編成。嶋田氏に、毎週の事務次官連絡会議を仕切らせるとともに、財務省出身の首相秘書官2人と、後輩である木原氏との連携を強化させた。

政府関係者が話す。

「新たな支えを得た木原氏は、『経済を止めるから』と緊急事態宣言の発出だけは回避したい首相の意向を受け、要請に傾く大阪府の抑えにかかっている」

大阪府の死者数が激増する中、「人命軽視」と批判されかねない役回りにもかかわらず、「よくやってくれている」と首相の評価は高いという。

安倍氏に対しては、首相自身が動いた。1月下旬に東京都内の日本料理店で会食したのに続き、2月9日には官邸で30分ほど会談。ウクライナ情勢について助言を受けた。「執務室に招いて丁重にもてなす狙い」(政府関係者)だったが、別の目的もあった。

米国やロシアのプーチン大統領との関係を確かめようとしたのだ。政府関係者によると、首相が外務省を通じて得ている情報より、安倍氏の話のほうがずっと濃い内容だったという。

安倍氏が米国から依然として重要視されており、プーチン氏とも関係を維持していると確認した首相は、安倍氏に「政権を引き続き支えてほしい」と懇請。安倍氏は「分かっています」と、上機嫌で応じたという。

首相は8日、公明党の山口那津男代表とも会談。参院選では自民党候補を推薦せず、人物本位で支援するとの公明党方針に関し、勝敗の行方を左右する、全国32の1人区では「ほぼ支援を得られる」見通しであることを確認し、茂木氏の失点回復に努めた。

岸田首相は今の難局を乗り切り、3月下旬に2022年度予算を成立させれば、後半国会では経済安保法案の成立に全力を挙げるとともに、5月下旬にバイデン米大統領を国賓として招き、外交成果をアピールする構えだ。経済の本格的回復と参院選をにらみ、「GoToトラベル」の再開も視野に入れる。

だが、オミクロン株の収束はまだ見通せず、今後、死者数が増加の一途をたどれば、政権のコロナ対策への批判がさらに強まるのは避けられない。

いくら官邸チームのテコ入れをしたところで、人事で大なたを振るわない限りは単なる弥縫策にしかならず、政策の遂行がさらに滞る展開もあり得る。

自民党の茂木執行部もしかりで、参院選勝利がおぼつかなくなるようなら、茂木氏を幹事長に据えた岸田首相の責任が問われるどころか、政権の命運にも関わってくる。

さまざまな不安定要素をはねのけ、安定政権を築くことができるのか、それとも政権が失速して政局の流動化を招くのか。どちらになるかは岸田首相のリーダーシップ次第だ。

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