(画像)karamatsuri / shutterstock
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短期集中連載『色街のいま』第8回「南関東の温泉地」~ノンフィクション作家・八木澤高明

新型コロナウイルスの流行により大きな打撃を受けた業界といえば、まず観光業が挙げられるのではないだろうか。各地の温泉地では閑古鳥が鳴いており、廃業に追い込まれたホテルも少なくない。温泉地特有の風俗といえば、連れ出しスナックとともに並び立つのがスーパーコンパニオンだろう。


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温泉街が惨憺たる状況の中で、このコロナ禍をコンパニオンたちは、どう生き抜いているのか気になっていた。 話を聞いたのは、南関東でスーパーコンパニオンを派遣する事務所経営者の村田という人物だ。知人を介して会ったのだが、これまで出会った風俗業界の面々が一癖も二癖もあるタイプだったのに対し、村田は人混みに紛れてしまうと、埋没してしまうような雰囲気を漂わせるタイプだった。


「最近は暇なんで、時間はいくらでもあります。なんでも聞いてください」


一見すると、風俗業界の人間には見えない村田だが、どういう経緯でスーパーコンパニオン派遣事務所を開業するに至ったのか。


「高校を卒業してから、ずっとフリーターというか、常に家にこもっているような生活をしていました。そんな中、今から14年ほど前にたまたまコンビニに行ったとき、スポーツ新聞を買ったところ、その求人欄に『在宅メール・アポインター募集』という広告が出ていたんです。家でできるしいいなと思って、その求人に応募しました。それが〝援デリ〟の打ち子でした」


〝援デリ〟とは、出会い系サイトで素人女性を装って客を集めるデリヘルのことで、女性はすべてプロのデリヘル嬢である。打ち子は、援助交際を装って女性の役割をこなし、男性とアポイントを取るのが仕事だ。


「これが風俗業界との接点になったんです。家で仕事ができますし、客を1人捕まえれば2000円もらえました。1日平均5人はゲットできたので、月に30万円ぐらいの収入になりました。そのまま打ち子の仕事をやっていたかったんですが、2年ぐらいすると徐々に稼げなくなって、辞めることにしたんです」


風俗業界との接点を持った村田は、経営する側に回りたいと考えた。そこで思い立ったのが、コンパニオンの派遣会社だった。


「コンパニオンには、通常のそれと、スーパーコンパニオンの2種類があるんです。私が最初に立ち上げたのは、通常のコンパニオンの派遣会社でした。こちらは、お触りはあっても脱ぐことはありません。起業といってもホームページを作るぐらいでできたのと、さらに自宅で営業できて、自分に合っていましたね」

大きな宴会が減っているので厳しい…

そこで働く女性はどうやって見つけたのだろうか。

「同業者が貸し出してくれるんです。ただ、年末とかの繁忙期は貸してもらえなくなるので、自分で集めなければなりません。どうやって集めたかというと、他の会社より時給を高く設定したんです。コンパニオンは女性の質が大事で、最低でもキャバクラで通用するぐらいの女性が欲しかったんです。こちらの実入りは減りましたが、結果的にそれがうまくいき、女性を集めることができました」


それが、いつしか女性も裸になるスーパーコンパニオンの派遣も始めるようになった。


「理由は、やっぱり収入ですよね。単純にスーパーコンパニオンは倍の料金なので、稼ぎが違ってきます。神奈川、山梨、静岡まで、温泉地でも居酒屋、自宅でも。どこにでも派遣しますよ」


ここで私が気になったのは、スーパーコンパニオンを温泉地のホテルに派遣するケースのことだ。基本的に、スーパーコンパニオンはホテルを通して呼ばれるものだ。しかし、村田の事務所は危ない橋を渡り続けている。ホテル側との交渉は、どうしているのだろうか。


「お客さんにホテル側と交渉してもらいますが、そのケースは全体の10%ぐらいです。温泉地のホテルは地元のコンパニオン業者と繋がっているので、お客さんが交渉しても絶対に入れてもらえないか、法外な料金を請求されることになります。なので、お客さんにはホテルと交渉しないでくださいと伝えて、こっそりと女の子を入れちゃうんです。あるホテルでは、非常階段から送り込んだこともありましたね」


リスクの高い商売だが、実入りがいいから続けているのだと村田は語る。


「一番良かった2018年は年収が1200万円ありました。その後、消費税が上がって1000万円を切り、今はコロナによって横ばいといったところですかね。2020年の4月は1席しか入らなかったので、最悪でした。緊急事態宣言が出るとガクッと減って、明けるとパッと入るという流れですね。ただ、そもそも大きな宴会が減っているので、厳しいことに変わりはないですね」


今度は、村田の事務所に所属しているスーパーコンパニオンの女性(30代)に話を聞いた。コロナ禍となり、客の質に明らかな変化があったと語る。


「ぶっちゃけて言うと、変なお客さんが増えましたね。この前はマンションの一室に呼ばれたんですけど、大麻を堂々と吸っていたり、覚醒剤を見せられたりしました。そんなお客さんは今までいなかったので、とても驚きました」


世相の乱れは、風俗業界にも少なからぬ影響を及ぼしているのだった。
八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。