エンタメ

『ゴヤの名画と優しい泥棒』/2月25日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

ⒸPATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020

『ゴヤの名画と優しい泥棒』
監督/ロジャー・ミッシェル
出演/ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グード
配給/ハピネットファントム・スタジオ

石川五右衛門や鼠小僧のように、権力に盾突きながらも貧しい大衆の味方となる、義侠心ある盗賊を「義賊」と呼んだりしますが、そんな古めかしい呼称を思い起こしてしまった映画です。

世界屈指のコレクションを誇る国立美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」で起きた、ゴヤの名画『ウェリントン公爵』盗難事件。

大胆不敵な手口に、当局は周到な計画によるプロ集団の犯行だと断定。ところが、犯行声明ですぐに足が付いた犯人は一般市民の60歳のおじいちゃんだった。えっ、60歳!? 見た目はもっと…てか、自分より年下じゃないですか。

ともあれ、こんな痛快で、こじゃれた喜劇が、1961年に起きた実話だったことにまず驚きました。イギリスが国家の威信をかけて蒐集した作品が盗まれたのは、後にも先にもこの1回だけらしいです。

映画化にあたり、これまで知られていなかった「事件の真相」が、実の孫の協力のもとにかなり忠実に再現されています。アカデミー賞を受賞した名優たちが犯人のおじいちゃんとその古女房を演じているだけあって、見た目も佇まいもご本人たちの写真にそっくり。これを見た本国の方々は、さぞや喝采を送ったことでしょう。

揺るがない「弱きを助ける」信念

さて、この前代未聞の犯罪の動機が、絵画を人質に取ってせしめた身代金で、高齢者たちに無料で公共放送(BBC)を視聴させてやりたいというもの。60年代当時、人々にとってTVが唯一の社会に開かれた「窓」だった時代です。孤独な高齢者の楽しみを受信料で奪うなんて、という義憤をこのおじいちゃんは街頭演説でも繰り返し訴えていて、実際、彼は受信料支払いを拒否したために二度も刑務所に入れられています。そのせいで職を失ってもなお「弱きを助ける」信念は揺るがないどころか、絵画の盗難までやってしまうんですから、筋金入りです。

と、ここで思い出しませんか? わが国にも同様の主張を続ける活動家がいることを。

政党名を六度も変えながら、現在は「NHK受信料を支払わない国民を守る党」の党首として、「NHKをぶっ壊す!」と主張する立花孝志氏です。立花氏もNHKへの威力業務妨害などの罪で執行猶予付きの有罪判決を受けていますが、「全く反省していません」。

かたや市民のために活動した英雄として、法廷でのウイットに富んだ答弁や人柄で愛されていたのに対し、立花氏は今や「トンデモ」枠の人。いったい、どこで手法を誤ったのか、本作を見て、ぜひ一考願いたいところです。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

あわせて読みたい