社会

石原慎太郎の予言…創価学会“敗北参院選”【前編】/ジャーナリスト・山田直樹

石原慎太郎
石原慎太郎さん (C)週刊実話Web 

2月1日に逝去した昭和の大作家・石原慎太郎氏には、こんな予言がある。

《新しい政治家の諸君というのは敗戦後の占領軍による屈辱的な戦後史の詳細をみんな知らないと思いますし、その象徴の憲法というものをこれから参議院でも議題にしようと思いますけれども、自民党の友党の公明党の党首は、いまだにこれを国民的なイシューとは思わないという発言をされているようですが、昨日の新聞にも非常にこの問題についてはリラクタント(不本意=筆者注)な発言をされていましたが、私は、この問題を乗り越えない限りはこの国は本当に再生しないと思いますよ。自民党も再生しないと思いますよ。私、あえて忠告しますけど、必ず公明党はあなた方の足手まといになりますな。いや、本当のことを言っているんだ。君ら反省しろよ》

これは、2013年4月17日の党首討論(通称)における日本維新の会(旧)共同代表としての石原氏による質問の一節だ(一部略)。

石原氏は、憲法改正問題で公明党が足手まといになると見立てたが、現在はそのずっと手前、今夏に行われる参院選挙の選挙協力で「連立以来初めて」と言っていいほどの軋轢が生じている。

この軋轢は果たして修復可能なのか? まず明らかなのは、公明党を通り越して支持母体の創価学会が激怒しまくっている事実だ。

「例えば、貸金業法違反の罪で在宅起訴された公明党の遠山清彦元衆院議員の事件や、公明党がずっと確保してきた国土交通大臣の足下で起きた統計データ書き換え事件など、昨年は散々でした。公明党への学会員不信は募りますよ。昨年10月末の衆議院選挙で勝利したのに、それを支えた創価学会組織に泥を塗ったのが公明党。今回の選挙協力で見ると、夏に参院選があるのは前から分かっており、自公選挙協力体制を確保しておくのは当然でした。それが岸田内閣になった途端、学会と官邸のパイプがなくなり、党は官邸にターゲットを絞るのか、自民党中枢を交渉相手にするのか手をつけあぐねているうちに、候補者相互推薦の交渉期限の昨年12月末がすぎてしまった。カウンターパートだけと交渉しても埒が明かないのにね」

こう憤慨するのは、首都圏学会古参幹部である。また、政権や自民党中枢と学会・公明党の双方には「近年、稀に見る交渉人不足がある」と見立てるのは、学会本部のある東京・信濃町の中堅幹部だ。

「創価学会側にタフネゴシエーターがいない。もっと言えば、創価学会側に当時の菅義偉総理-二階俊博幹事長と渡り合ったような人材がいないということです。特に菅前総理と昵懇だった佐藤浩副会長が退職し『官邸をバックに公明党へ圧力をかける』芸当の出来る人材がいなくなった。創価学会の信者高齢化はよく話題になりますが、組織中枢だって負けていません。少なくとも、現役の主任副会長以上はすべて60歳代を超えている」

前代未聞の『聖教新聞』1面記事

今回、創価学会が今夏参院選における自民党への挑戦状とも取れるマニフェストを公式に出したのは、1月28日付『聖教新聞』である。同紙の「一丁目一番地」、つまり、1面のまん真ん中には「萩本(直樹)議長の談話」のリードに続いて、「学会の支援は『人物本位』貫く」なるメインタイトルが踊っている。

東大卒の萩本氏が議長を務めるのは、『中央社会協議会』である。この組織の主な役割は、公明党をはじめ他党、支援組織や政治組織との調整、すなわち選挙活動の方向を決めること。各都道府県にも地方の社会協議会組織があって、首長、地方議員の推薦等がここで決定される。

萩本議長(1963年入会)は総東京長と聖教新聞社代表理事の要職も兼務しており、次期会長の声も上がっている。

多くのメディアは「創価学会が異例の発表を行った」と、「人物本位」の記事を評するが、実は異例どころではなく前代未聞と表現するのが正確だろう。連立政権発足以来、聖教新聞1面中央に中央社会協議会の記事など載ったことがないのだ。日経新聞だけが、創価学会広報室のこんなコメントを報じている。

「(記事は)単に異例だけではなくて、初めて」

聖教新聞の記事自体は、創価学会会員個々人というよりも、中央から地方に至る中央社会協議会へのお達しのように見える。

「記事の中身は、これまで学会が選挙にあたって他党や知事選などの相乗り候補者を推すときの原則を強調しているにすぎません。それをわざわざ1面中央に持ってくる意図は、自民党の参院選挙1人区候補者への釘刺しですよ。この脅しは利きます。立憲民主党はもはや相手ではない。維新です。兵庫選挙区で自公が揉めているのは、双方が『連立パートナーを応援する余裕などない。自前候補当選だけで手一杯』の状況にあるからです。その原因は、維新が自公に割って入って大量得票で勝ちそうな趨勢だからです。連立与党側の獲得票数が少なくて、立憲などが1議席を獲得したら目も当てられません。要するに、岸田内閣の支持率によっては、複数人区で野党候補が勝つ可能性もある」

これは兵庫県の学会中堅幹部氏の見立てだ。

「遠藤さんに選対を任せた岸田さんの人事が、裏目に出ている。あの人じゃ自民党も勝てないし、比例票がかなり減るのでは」(同)

要するに、自民党側にこそ軋轢、齟齬の原因ありとの見方だ。確かに、茂木敏充幹事長-遠藤利明選挙対策委員長に関して、2人とも東日本(栃木と山形)の選挙区出身であり、「複数候補の立つ西日本の参院選挙区に対して調整能力を期待するのは、とても無理」との声も聞こえてくる。

「岸田さんは、政調会長時代に『特別給付金』の減収世帯あたり30万円スキームを決めたのに、学会・公明党の圧力で『1人一律10万円支給』に無理やり路線変更させられた怨念がありますしね」(政治部記者)

経済学では「合成の誤謬」という考え方がある。何かの問題解決にあたり、1人、1人が正しいとされる行動をとったとしても、全員が同じ行動を実行したことで想定とは逆の思わぬ悪い結果を招いてしまう事例などを指す。これを自公両党の〝今〟に当てはめてみよう。

まず自民党側だが、茂木幹事長は公明党が昨年末と期限を区切った相互推薦合意をすっぽかした上、公明党が「自力当選を目指す」と公言している段階においても、「これからも丁寧に議論を重ね、協力を進めたい」旨の発言を繰り返している。相手が「協力云々の時期は、とうにすぎた」と言っているのにである。

加えて、実際の仕切りは、遠藤選対委員長に丸投げして、問題選挙区の地元自民党県連などへ説得に当たらせている。そして、当事者である全国の自民党候補者は、「公明党・創価学会の支援がなくては、当選などとてもとても」と恐怖感におののいている。

一方、「相互推薦は御破算。あくまで自力当選を目指す」と、いきり立つ公明党・創価学会側にしても、自民党全体が改選議席を大幅に割り込むことになれば、連立政権の存亡にかかわる問題に発展する。

以上のような状況で、自公双方が「自力原則」で戦ったとすれば、自身は正しいと信じても、結果はまったく正反対となる可能性は否定できないのである。

落ち込む関西地域の“得票数”…

一見、公明党・創価学会側に筋論があるかのように受け取られるが、そもそもが複数人の立つ選挙区での協力のため、1人区で自民党候補を応援する〝片務的〟条件をのんで連立が成り立っている。その根幹をぶち壊す勇気が、果たして創価学会・公明党サイドにあるのだろうか?

東京地区で長く選挙活動を担当してきた学会中堅幹部が「これは私だけではなく、選挙統括者ならほとんど知っている話です」とした上で、こう打ち明ける。

「創価学会全体の得票で言うと、特に関西エリアの落ち込みが問題なのです。石井啓一幹事長は『AERA』のインタビューで、得票率は落ちていないと述べましたが、あれは投票した有権者数を分母にした相対得票率の話。有権者全体を分母にした絶対得票率は、ずっと下降しています。つい先だっての毎日新聞が『参院選の投票先』を尋ねるアンケートをしていた。これが組織内で話題になってましてね。荒っぽい予想記事には違いないのですが、投票先のトップが自民党で28%。次に維新が21%で続いてるんです。立憲は11%で公明は一桁台でした。このままいくと、比例票がゴソっと維新に持っていかれる可能性大というのを示しているわけです。数少ない公明党の選挙区候補の全員当選が、いかに大切か分かりますか。そこで取っておかないとダメ。比例票をアテにできない状況です」

ついでに触れると、創価学会選挙の〝縛り効果〟が、若年層に利かない現状もある。先の衆院選でも、実はこの傾向が表れたという。

「面従腹背と言ったら厳しすぎますが、区議とか市議など地方選挙の票は、ほとんど予想通りに出ます。ところが、国政レベルになると、様相が一変する。学会若年層の投票先が読めないんです。もちろん、投票行動で一番のボリュームがあるのは高齢者。彼らの期日前投票は堅い結果となる。ところが、特にF(フレンド)票になると、かつてのように確実に公明党へ投票してくれているのかどうか、分からなくなる。先の衆院選で公明党の牙城・東京12区などNHKの開票速報第1弾(出口調査)では、維新候補がトップでした。票読みで私たちの予想と違った。結局、期日前投票が開いて勝ったわけですが、その分の上積みもしっくりこない数字でした」

その原因は、公明党の政策が「いくら若者のためにやっているとアピールしても、高齢者中心主義だ」と見立てる現役世代の反発、18歳から20歳までの信者獲得の困難性などなど、組織内ではいくつも挙げられているという。中には、「女子部が婦人部に吸収される形で女性部は発足したが、独身と家庭持ちでは税制に対する考え方が根本的に違う」とする、学会組織だけでは解決不能の問題点を指摘する声もある。

しかし外野から見ると、根本的問題はもっと別のところにありそうだ。選挙前になると浮上する給付金、対中国非難決議や改憲問題、払った分より少ない若者の年金、膨れ上がる国の借金と現役世代へ重くのしかかる社会保障という第2の税金…それらに公明党・創価学会はどう向き合ってきたのか次回述べる。

※創価学会“敗北参院選”【後編】は2月17日(木)発売号に掲載予定です。

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