岸田首相に暗雲…「佐渡島の金山」世界文化遺産推薦で支払わされる代償
岸田政権は1月末、「佐渡島の金山」(新潟県)のユネスコ世界文化遺産登録推薦を表明した。当初、政権内では「推薦見送り」で一致していた。それがひっくり返された背景として「安倍晋三元首相・高市早苗政調会長の保守勢力に屈服」した経緯が見え隠れする。加えて、佐渡島の金山推薦にバイデン政権が怒り心頭という情報も飛び交っている。
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自民党内では岸田政権が「推薦」したことでの「代償」の重さを懸念する声が強まっていた――。岸田系列議員が一連の流れをこう解説する。
「推薦見送りは早い段階から岸田政権内で確認されていた。『佐渡金山では戦時中に朝鮮人の強制労働が行われた歴史がある』と韓国政府の反発が予想され、その説得が今回は難しいと判断していたからだ。かつて同じユネスコで日中韓などの民間団体が旧日本軍による『従軍慰安婦』を世界記憶遺産に登録しようと動いた。これに日本政府は『ユネスコの政治利用』と猛反発し、流れは止まった。さらに、日本は登録の改革案をユネスコに提言し、ユネスコも昨年4月、『加盟国の反対があるテーマは遺産登録を見合わせる』という制度改革案を承認した」
日本が主導した改革案に照らし合わせれば、佐渡金山推薦がどうなるかは火を見るより明らか。
「世界記憶遺産と世界文化遺産の違いはあるものの、同じユネスコ案件。2015年に『軍艦島』(長崎県)が世界遺産に登録された際も、朝鮮人の強制労働問題を巡り韓国との間で揉めに揉めている。佐渡金山推薦に反発する韓国との対話で落としどころが見えないため、推薦見送りとしたのです」(同)
安倍元首相の野望に乗った高市氏
この状況は年明けに一変することになる。「文化審議会が昨年12月28日、佐渡金山遺跡をユネスコ文化遺跡の推薦候補に選んだ。これはあくまで形式的なものだった。推薦発表に韓国は噛みついたが、岸田政権にすれば想定内。最後は岸田政権の決断で推薦見送りとする運びだった。しかし、岸田政権の読みが狂いだすのはこの後です」(外務省関係者)
安倍元首相だ。
「そもそも、安倍氏は佐渡金山に大きな関心を示していなかった。ところが、顧問を務める自民党保守系議員40人以上で作る『保守団結の会』が、佐渡金山推薦に韓国が反対し即反応。逆に早く推薦を政府が決めろと騒ぎ出した。機を見るに敏な安倍氏は、岸田首相に対し〝推薦で圧力をかけろ〟と周囲に電話をかけまくった」(自民党長老)
なぜ、安倍元首相は突如、動き出したのか。
「政治的思惑だ。安倍氏の肚には院政か、あわよくばもう一度総理総裁という野望が透けて見える。尖閣諸島や慰安婦問題など中韓に対する強硬論は保守派を結集できる材料で、世論の支持率も高くなる。約100人という最大派閥の安倍派、そして保守派をまとめ、岸田政権に圧力をかけ操ることが狙いだ」(同)
安倍元首相に連動したのが高市政調会長だ。
「高市氏は衆院予算委員会で佐渡金山問題を取り上げ、林芳正外相を攻め立てた。ポスト岸田を狙う高市氏にすれば、佐渡金山非推薦を取り上げ攻撃すれば、ポスト岸田候補の林人気は凋落し、逆に保守派の支持が増えると読んだ。しかも、自分の後ろ盾である安倍氏は次の衆院選挙で林氏と公認争いする可能性がある。〝林攻撃〟は安倍氏が喜ぶと踏んだんだろう」(同)
いずれ太刀打ちできぬ事態に…
いくら岸田政権内で佐渡金山の推薦を決定しても、世界文化遺産登録の見通しは暗い。「保守派内では一時、『推薦しなければ、岸田内閣を倒閣すべし』の強硬論も吹き出し始めていた。長期政権を目指す岸田首相は今夏の参院選にどんな手を使ってでも勝つことが最優先事項。まずはオミクロン株の鎮静化、次に自民党内を一枚岩にする…。だから岸田首相は安倍元首相にお伺いを立て推薦を飲んだのです」(岸田派ベテラン議員)
ひとまず自民党保守派の溜飲は下げた。しかし、岸田政権にとって予期せぬ事態を招く恐れもある。自民党二階派関係者は「今後、いくつかの大きな代償を払う」と指摘する。
「1つは今回の推薦に味をしめた安倍氏と保守派の発言力はさらに増してくる。岸田首相はそれを退けることができるか。2つ目は対米関係だ。アフガン撤退時の混乱で人気が落ちたバイデン政権は、ウクライナ情勢でロシア、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮、新疆ウイグル自治区人権問題、台湾危機などで中国と対立し、厳しい局面の連続だ。11月には米中間選挙も控えている。バイデン政権は日米韓で足並みの乱れを見せず中国、北朝鮮、ロシアと対峙したい。日本が佐渡金山推薦で韓国と波風を立て歩調を乱している現状に対しては苦々しく思っている。これ以上、韓国と仲違いするなら、日本側に譲歩を迫ってくることも考えられる」
世界文化遺産登録を望む地元新潟県や関係者への影響も計り知れない。
「今回、登録は無理。しかも一度、世界遺産への登録が不可能と判断された推薦候補がその後、再び登録された例は過去にゼロ」(同)
推薦は〝遺恨〟を残した。
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