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蝶野正洋『黒の履歴書』~知られざるプロレスラーの契約更改

蝶野正洋
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

新日本プロレスの内藤哲也選手が、今期の契約更改で24%ダウンの年俸を提示されたそうだ。昨年度の内藤選手はケガで休場することもあり、またコロナ禍による売り上げの減少など致し方ないという事情があるんだけど、とはいえ、プロレスラーの年俸ダウンが話題になることは珍しいよ。

今は事情が違うかもしれないけど、俺の経験で言えば、新日本プロレスのレスラーは1年契約。トップレスラーか、引退間近のベテラン選手が複数年契約をすることはあるけど、基本的には前年度の活躍度や貢献度を査定して年俸を決める。

だからこそ、契約更改の時に選手はベルトを取ったとか、リーグ戦で優勝したとかの成果をここぞとばかりにアピールする。選手同士でカネの話はほとんどしないから、ライバル選手が実際にいくらもらってるかは分からないんだけど、「俺は武藤敬司よりは活躍しましたよ」と引き合いに出したりね。ただ、それでギャラをアップしてくれるほど会社は優しくない。だから俺は会場での物販の売上高や、リング外でオファー交渉をまとめた件など、具体的な数字や仕事の成果を持ってテーブルに着いていた。

グッズのロイヤルティーや、テレビやイベントの出演料、CMの契約金は別に契約していて、事前に取り決めたパーセンテージで折半していたから、年によってはこちらの収入のほうが上回ることもあったけど、年俸もそれに比例して交渉するという感じだったね。

俺の時代は会社のせいにしてたけど(笑)

俺は現場監督になり経営側として選手とギャラ交渉したこともあるけど、重視したのは数字。選手はメインを何回張ったとか言いがちだけど、対戦カードや試合順というのは全体のバランスで、ただ試合順が後ろだからといってギャラが上がるわけではない。やはりグッズ売上高や集客力といった具体的なデータをみる。

そもそも、選手のギャラというのは予算枠があって、それを分配してるだけなんだよ。経営側は若手や中堅選手のギャラを最初に固めておいて、そのあとにトップどころや、伸びてきた選手の交渉をして、折を見てボーナス査定を加える。ただ、そのボーナス枠といっても全体で10%にも満たない、いわば余白の部分で、それ以上は何をしてもムリ。ただ、選手がアピールしてこなかったら、この分も会社は出さないんだけどね。

これからは一般のサラリーマンでも年俸制になったり、給料を自分で交渉するような場が増えてくると思うけど、とにかく黙ってたら給料は上がらない。ただそこで「頑張ってます」と言うだけじゃ、会社は「それは知ってる。だから来年もこれで頼む」となる。だからそこで売り上げが20%上がったとか、具体的な実績を示すのが大事なんだよ。

ただ、実績というのはプラスもマイナスもある。内藤選手もそれを実感していたから、ダウン査定でもサインしたんだと思う。でも、ある意味でこれはアピールというか、トップどころの俺がダウン提示を受け入れたんだから他の選手も分かるよな、という隠しメッセージかもしれない。

俺の時代は、ギャラが下がったらぜんぶ会社のせいにしてたけど(笑)。今は新日本プロレスにはブシロードという親会社があって、悪評をバラまくと株価にも響くからね。言えないこともたくさんあると思うよ。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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