森永卓郎 (C)週刊実話Web
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今こそステイホームを実行すべき!~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が1月19日に取材を受け、「人流抑制ではなく人数制限がキーワード。ステイホームは必要ないと思う」と話した。この発言の真意は何か。私は尾身会長が政府に忖度して、政策変更のアドバルーンを揚げたのだと思う。


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ステイホームを実施した場合に大打撃を受ける経済界への配慮と、特別定額給付金のような財政負担を避けたい政府の思惑があるのだろう。


しかし世論の反発を受けて、後藤茂之厚生労働大臣が直後に尾身発言を否定し、尾身会長自身も発言の大幅修正に追い込まれた。ただ、感染放置に近いことを考えざるを得ないほど、政府のコロナ対策が手詰まりになっていることは事実だ。


オミクロン株の感染力が強いことは、感染拡大のスピードが極めて速いことからも明らかだ。のどの近くで繁殖するため、放出されるウイルス量が多く、抗体を乗り越える力も大きい。その中で、私は重要な感染経路の1つは、満員電車だと考えている。


大都市における通勤時の満員電車は、目の前に他人の顔がくるほど密になっている。仮にマスクをしていても、くしゃみだけでウイルスは拡散される。そして長時間、身動きが取れずに浴び続けるのだ。また、ワクチン接種を先行したため、保有抗体量が落ちている高齢者が、感染の中心になっていないことも、満員電車が感染源であることを疑わせる。


ただ、政府としては、満員電車が感染源とは絶対に言えない。そんなことを言えばパニックになるし、通勤をやめたら経済活動がストップしてしまうからだ。

強く短い対策を採るしか方法はない

私は、ステイホームは効果があると思う。オミクロン株の封じ込めにある程度成功しているのは、世界中で中国だけだ。中国は感染地域のロックダウンと市民全員のPCR検査で、封じ込めに成功した。しかし、それが可能なのは中国が専制国家だからであり、民主主義国家では不可能だ。そもそも日本では、ロックダウンを可能にする法的枠組みがないと言われている。

確かにその通りだが、日本でもできることはある。それは短期間のステイホームを実現することだ。具体的には、土日を含む連続5日間、列車やバス、航空機、そして高速道路を封鎖するのだ。台風が襲来したときに行われていることだから、現行法でも十分可能だ。


幸か不幸かオミクロン株の潜伏期間は、感染から5日間程度である。だから5日間のステイホーム期間に、感染者の大部分が発症する。発症した人は入院か自宅待機を続けてもらう。こうしたやり方で新規感染者はゼロにはならないが、大幅に減少することは間違いない。もちろん、その後に再び感染拡大が起きれば、また5日間のステイホームを実施すればいいだけの話だ。


感染拡大を放置したアメリカでは、自宅隔離によって出勤できない労働者が激増したため、医療機関や学校、公共交通機関などが機能不全に陥っている。このまま感染拡大が続けば、日常生活を送ることが困難になっていくのだ。


短期間のステイホームを何度か繰り返すのと、緩い規制で感染拡大を放置するのと、どちらが経済的な被害が大きいのかを比較して政策決定をすべきだ。私は感染が全国に拡大した現在、強く短い対策を採るしか方法はないと思っている。