
短期集中連載『色街のいま』第5回「大阪・今里新地」~ノンフィクション作家・八木澤高明
近鉄今里駅前。目抜き通りには大きなたこ焼き屋があって、地元の人には見慣れた景色なのかもしれないが、私は大阪に来たことを実感していた。
そこから10分ほどかけてゆっくり歩いていくと、薄暗い通りに、ぼんやりと明かりが灯っているのが見えた。
【関連】短期集中連載『色街のいま』第4回「尼崎・かんなみ新地」~ノンフィクション作家・八木澤高明 ほか
その明かりとは、営業している今里新地の「茶屋」のものだ。
茶屋と呼ばれるのは、今里新地は昭和のはじめ、芸者が芸を売る花街として誕生したからである。芸者の中には、純粋に芸を売るだけでなく、「転び」と呼ばれる娼妓と変わらない女性も少なくなかった。
花街として生まれたことから、売春を表にしていた飛田新地とは同列に見られることを嫌う経営者も少なくない。ただ、今となっては茶屋というのは名ばかりで、すでに今里新地から芸者の姿が消えて久しい。
唯一の名残りは、飛田のように娼婦が遣り手のおばさんと並んで座ることなく、かつての置屋のように待機している場所から送り込まれてくることである。つまり、今里で遊ぼうと思っても女性を直接選べるわけではなく、遣り手のおばさんとの交渉が必要になるのだ。
今里新地ができたのは、1929(昭和4)年のことだ。開業した当初は、13人の芸妓からスタートした。田んぼを埋めたてて作られたため、開業当初はひと雨降れば道がぬかるむだけでなく、建物も浮くような状態だったそうだ。そのため、芸妓たちはお座敷に上がるのに、男衆に背負われて向かったと『今里新地十年史』には記されている。
そんな状態から始まった今里新地だったが、年々発展していき、戦後には100軒の店に300人の娼婦がいるまでの規模に拡大した。その背景には、今里の経営者の努力とともに、大阪が工業の街として発展したことも見逃せない。今里の周辺には中小の町工場も多く、そこの旦那衆に支えられてきた側面があったのだ。
「昔はこの通りの端から端まで全部お茶屋さんやったけど、今じゃ寂しくなってしまったな。100軒はあったんじゃないかな」
今里新地にある一軒の茶屋の前で、遣り手のおばさんに話を聞いていた。私たちがいる長さ300メートルほどの通りにある茶屋は10軒にも満たず、韓国料理店やベトナム料理店、マンションなどに姿を変えている。
平日の夜ということもあって、人通りはほとんどない。現在営業している店は8軒だという。コロナの影響もあったはずだ。
「大阪に緊急事態宣言が出ていた時は、ずっと店を閉めていたんですよ。もちろん、売り上げにも影響がありました。あるお茶屋さんは閉めてしまいました」
少しでも賑やかな時代に近づけたい
次に私が話を聞いたのは、今里新地で茶屋の経営に携わる男性だった。年齢は50代で、ここからほど近い場所で生まれ育った。「コロナで大変だったですけど、最近は働いている女性も若い子たちが増えてきたこともあって、ここから盛り返そうと思っているんです。私が小さい頃は、近鉄の駅の周りのほうまでお茶屋さんがあったりして、とても賑やかなところだったんですよ。働いている女性も、大げさかもしれませんが、1000人ぐらいいたような雰囲気でした。ここから芸者さんを京都の祇園に送ったりしていました。海外でも、大阪の繁華街といえばキタではなく今里だと言われた時代もあったそうです。その頃の活気までとは言いませんが、少しでも賑やかな時代に近づけたいと思っているんです」
そんな時代があったのかと、今の状況からは信じ難い話だった。しかし男性の表情は真剣で、なんとしても今里を再興しようという思いが伝わってきた。
新地で働く女性にも話を聞いてみた。茶屋に上がり、布団の敷かれた部屋で10分ほど待っていると、「お待たせしました」と、黒髪のスレンダーな女性が入ってきた。
「レイと言います。よろしくお願いします」
先の男性が言った通り、爽やかな雰囲気を漂わせる若い女性だ。彼女はコロナが流行する前の、2019年の暮れから今里で働き始めたという。
「それまでは大阪でホテヘルをやっていたんですけど、その時の同僚に『もっと稼げる場所がある』と言われて、ここに来たんです」
実際に働いてみると、ホテルで客と2人きりになるホテヘルと違い、待機場所からそれぞれの茶屋へ行くシステムなどに守られている安心感があるという。
コロナが流行した昨年の状況について聞いてみた。
「その時はお店が閉まっていたので、福原(神戸)のソープに行っていました。ただ、向こうは、けっこうお客さんの波が大きくて、1日に3000人とか感染者が出ている時でも、お客さんが来ない日はなかったんですけど、1日に1人という日もあったんです。でも、ここはお店に出れば平均して10人ぐらいはいらしてくれるので、精神的に楽ですね」
緊急事態宣言が明けてからはどうなったのか。
「特にお正月明けは、お客さんがすごかったですね。1日10人以上来てくれて、休めるのはお昼ご飯を食べる時間だけという状態でした。コロナで来られなかった人が、わっと来た感じです」
ただ、気がかりなのは、オミクロン株の影響だ。
「またお店が閉まったら困るって、毎週来てくださるお客さんもいます。私も当然、不安ですよ」
少しずつ活気を取り戻しつつある今里新地。コロナ第6波の暗い影が邪魔をしないことを願いたい。
八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。
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