山田久志インタビュー後編~「春キャンプと球界の未来」
1月19日にプロ野球・12球団監督会議が行われ、「延長12回制」の復活が決定した。新型コロナウイルスの感染状況などで再考の余地を残したが、出場選手登録数、ベンチ入りできる選手数、外国人選手の登録枠なども確認され、2022年シーズンの骨格が決められた。2月1日に始まった春季キャンプは、前年覇者のヤクルト、オリックスに注目が集まる。その見どころと、日本球界の未来は――。
【関連】山田久志インタビュー前編~「オリックス優勝の原動力」ほか
山田久志(以下、山田)「両チームの選手は大変だと思うよ。東京オリンピックの影響で通常よりも約1カ月も長く野球をやって、オフには体を休めたり、練習したり、やらなきゃいけないことがたくさんある。そこをいちばん心配しています。慌てて調整に入ることになると思いますし、キャンプでは注目されますよね。注目されるということは、ファンやマスコミの目が常に自分たちに向いているから、言葉は悪いけどチャランポランなことはできないし。しっかりしないと、怪我にもつながる。
オリックスで『私はプロです』と名乗れる選手は吉田正尚しかいません。あとの選手はまだ、これからという段階。さらに上っていくのか、それとも落ちてしまうのか。杉本裕太郎にしても、今年は厳しいですよ。攻め込まれますよ、インコースに。ホームラン王の宿命だからね、それは。それをかいくぐってきた人が成績を残しているんです」
また、今季は新しい指揮官を迎えたチームもある。中日は立浪和義監督、日本ハムは新庄剛志監督だ。山田氏と立浪監督は「監督、選手」として、同じユニホームを着た時代がある。〝応援団長〟として、新生ドラゴンズを心配していた。
山田「ここ数年チームが低迷していたし、名古屋のファンも厳しい見方をしていると思う。立浪はね、名古屋の人たちが待ち望んでいた監督なんですよ。その待望論がやっと現実になって、低迷されたら困るわけなんです。せめて上位に食らいついていってもらわないと納得しないでしょう。だけど、チームは地力を付けていかないといけない時期なんですよね。根尾昂、石川昂弥といった地元出身の期待の若手もいるけど、もし今年、頭角を現すとしたら去年の終盤にその兆しが見えていたよね。それと、打線が打てなさすぎる。打てる選手が欲しいんじゃないかな。立浪はもう1つ、何か策を考えないと…」
監督就任以来、話題に事欠かないのが新庄監督だ。「何を仕出かすのか、分からん」と笑っていたが、故野村克也氏の下で学んだこと、メジャーリーグでの経験が必ず活きてくると予想していた。
山田「奇抜な采配はないんじゃないかな。ただ、今までの監督像のイメージは完全に破られたなって。時代がああいう人の出現を待っていたのか、引き受けたから時代が変わったのか。でもね、彼もこの世界で結果を残したし、メジャーにも挑戦して真摯に野球と向き合っていたのは、本当。オリックスの中嶋聡監督もそうだけど、いろいろな環境で野球をやった経験が財産になっているはず。案外、正攻法で攻めてくるかもしれないよね」
イチローにキャプテンを打診
日本のプロ野球にとって、切り離すことができなくなったのが、「対世界」。東京五輪を戦った侍ジャパンの4番・鈴木誠也もメジャーリーグ移籍を決断した。予定通りにいけば、来年3月には第5回WBC大会も開催される。山田「新しく指揮官に就任した栗山英樹代表監督がどういう選手を集めるかが、いちばんの注目だよね。鈴木誠也がいなくなって、リーダー不在になるから。国際大会はね、リーダーが必要。私が第2回大会でコーチをさせてもらったとき、原辰徳監督がイチローにキャプテンをやってもらって、投手陣のリーダーは松坂大輔にと言ったんですよ。それで私が打診したら、イチローは『絶対イヤです』って言いやがって(笑)。大輔は『いや~、いいですけど…』と。当時はね、メジャーの日本人選手もいて助かったんだけど、最初はバラバラ。試合を重ねるごとに、まとまっていったんですよ。栗山監督がどういう選手を呼ぶのか、村上宗隆が4番じゃないかって予想するけど。五輪では金メダルを獲ったけど、WBCは五輪と全然違うから。大変ですよ、球数制限があるし、投手は1回投げたら休ませなきゃいけないルールだし」
二刀流・大谷翔平のさらなる活躍にも期待が寄せられている。こんな思い出話をしてくれた。
山田「彼が新人のとき、(沖縄県)名護市のキャンプに行ったんですよ。ブルペン投球を見に行ったら、サッと走ってきて、きちんと挨拶してくれた。こんなしっかりしている高校生は初めてで、『キミ、岩手出身だよな? オレは秋田だけど…』『ハイ、存じ上げております』って。『次は日本代表、そしてメジャーに行って頑張れ』って言ったら、その通りになって。栗山監督も言ってたけど、あまりこだわりがないらしいね、細かいことに。だからいいんだろうね。ウチの嫁さんなんか、野球のことを全然知らないのに、朝起きたら、『今日は大谷クン、どうだったの?』って。朝の挨拶になっちゃっているんですよ(笑)。
日本のトップ選手がみんな海外に行ってしまい、NPBの空洞化も心配されるけど、セカンドチャンスというのかな、再び日本でやる選手も増えてきてるから、それは大丈夫だと思う。黒田博樹が帰ってきたときは、カッコ良かったモン(笑)。広島のイメージアップにもなったと思うよ」
球界のために見直すべきこと
メジャーリーグが身近になった今だからこそ、日本のプロ野球界も改めなければならないことがある。山田「日程の問題を見直さないと…。ペナントレースが143試合あって、その中に交流戦もあって、日程を巧く組み込まなければいけないよね。クライマックスシリーズも入って難しいと思うけど、あそこがいちばん盛り上がるところなのに、少し期間が空いちゃって間延びするってのは良くないよね。アメリカでは中止になったら、そのゲームをすぐに別日に組み込むんですよ。ダブルヘッダーだって平気でやるから。あそこのワイルドカードから始まるポストシーズンマッチが盛り上がるわけだし、そこだけは絶対に日程を動かさないようにして、タイトなスケジュールになってもやっているんですよ、アメリカは。今はチャンスです。全国を歩いていて感じるのは、野球のこと、選手の話題が増えてきている。大谷のことに関しては話題に事欠かなかったし。球界をもっと盛り上げるために日程問題を見直すべきだよね。
簡単に今季の予想をすると、阪神は選手の入れ換えはほとんどないと思う。巨人もそんなに変わらないはずだけど、新しい戦力が活躍しそうだし、そうなったらオリックスにとっては厳しいかな」
自身の近未来はどうか。
山田「最近、女の子で野球をやりたいという子もどんどん増えているんですよ。オリックスに『受け皿になったらどうだ?』って聞いてみたら、今は考えてないって言ってたけど、高校とかで野球が好きで活動してきた女の子たちの行き場所がなくなるのはかわいそうだし、そういうこともいずれみんなで考えていかないといけないよね。タイガースは早かったよね、女子チームを立ち上げて。海外だと、最近、フィリピンで野球が盛り上がっているんです。米軍があるからかな。そこで頑張っている子を日本に連れてきて、交流させてやろうかとも考えています。でも、ともあれ、今年こそオリックスの祝勝会に行きたいなあ」
山田久志(やまだ・ひさし) 1948年、秋田県能代市出身。68年に阪急からドラフト1位指名され、70年から86年まで17年連続二桁勝利を挙げた。通算284勝はアンダースロー投手としてはプロ野球最多勝記録である。引退後はオリックスの投手コーチや中日の監督も務めたほか、野球解説者や評論家として活躍を続けている。
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