『認知症世界の歩き方』著者:筧裕介/ライツ社
『認知症世界の歩き方』著者:筧裕介/ライツ社

『認知症世界の歩き方』著者:筧裕介〜話題の1冊☆著者インタビュー

『認知症世界の歩き方』ライツ社/2090円
筧裕介(かけい・ゆうすけ) 特定非営利活動法人イシュープラスデザイン代表。1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。慶應義塾大学大学院特任教授。2017年より認知症未来共創ハブの設立メンバーとして、認知症のある方が暮らしやすい社会づくりの活動に取り組む。
――認知症を〝本人〟視点で解説し、大きな反響を呼んでいます。本にまとめようとしたきっかけはなんだったのですか?【関連】『野球と漫才のしあわせな関係―極私的プロ野球偏愛論』著者:塙宣之~話題の1冊☆著者インタビューほか

筧 認知症のある旦那さんと、その奥様のお話を聞く機会がありました。奥さんは「旦那が汚いニット帽をかぶることに固執していて、決して脱がない。臭いを発していても洗濯もさせてくれない。脱がそうとすると、暴力的になる」と。


そこで、私たちの仲間である認知症のある方がその理由を尋ねたんです。すると、旦那さんは「自分の目の前には、大きな木の枝が垂れ下がっていて、その木で怪我をしないように、帽子をかぶってるんだ」と答えたのです。


〝レビー小体型認知症〟の特徴的な症状である「幻視(他人には見えないものが見えるという症状)」が見えていたんですね。周囲の人には、「認知症の方が生きる世界、見えている景色」が全く見えておらず、それが大きなトラブルや偏見、認知症のある方が生きにくい社会を生んでいるのだということに気づきました。それが執筆のきっかけです。

認知症を「ひとくくり」にしないことが大切

――そもそも認知症とはどのような状態のことをいうのでしょうか?

筧 認知症とは、「認知機能が働きにくくなったために、生活上の問題が生じ、暮らしづらくなっている状態」のことです。認知機能とは、「ある対象を目・耳・鼻・舌・肌などの感覚器官で捉え、それが何であるかを解釈したり、思考・判断したり、計算や言語化したり、記憶に留めたりする働き」のことを意味します。


――認知症の方はお風呂を嫌がるそうですね。


筧「お風呂に入りたくない理由」は1つではなく、その背景にはさまざまな認知機能のトラブルがあると考えられます。


例えば、温度感覚のトラブルでお湯が極度に熱く感じたり、皮膚感覚のトラブルでお湯をぬるっと不快に感じるなど、その人が抱える心身機能障害(心と身体の不調・トラブル・誤作動)や生活習慣・住環境によって、どんなことに困難を感じるのかは異なるのです。つまり、認知症を「ひとくくり」にしない。それがとても大切なことなのです。


――認知症と共に生きるためのアドバイスをお願いします。


筧 加齢に伴い誰もが認知機能は低下します。認知症とは、そんな皆さんの生活の延長線上にある疾患であり、「何もできなくなる。すべてを忘れてしまう」、そういうものではありません。過度に恐れることなく、正しく理解して、誰もが認知症とともに生きやすい社会を一緒に実現させていきましょう。


(聞き手/程原ケン)