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アメリカのインフレ放置どうなる?~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

アメリカ労働省が発表した2021年12月の消費者物価指数は、前年同月に比べて7.0%上昇と、1982年以来、39年ぶりの高いインフレ率となった。

アメリカの中央銀行制度における最高意思決定機関「連邦準備制度理事会(FRB)」は、すでにインフレ抑制のために金融緩和政策の縮小を打ち出しているが、米国債3カ月物の利回りは0.11%にすぎない。

つまり、物価を差し引いた短期の実質金利は、マイナス6.89%ということになる。これが何を意味するのかというと、借金をしてモノを買えば、年に6.9%もの高利回りで儲かってしまうということだ。

もちろん、本来の実質金利は「期待物価上昇率」を用いて計算される。期待物価上昇率とは、人々が今後どれだけの物価上昇を予想しているのかという数字だ。現在、アメリカの10年国債の利回りは1.78%だが、物価上昇分を補填してくれる物価連動債の利回りはマイナス0.71%となっている。両者の利回りの差が期待物価上昇率となるので、今後10年間の期待インフレ率は2.49%である。

しかし、この期待物価上昇率は、一昨年末にはほぼゼロだった。つまり、この1年間で、期待物価上昇率が2.5%も上昇したことになる。現実の高い物価上昇を目の当たりにして、インフレが続くだろうと考える人が増え始めているのだ。

これは、とてもまずい事態だ。物価が上がると皆が思えば、国民は安いうちに買っておこうと行動する。投機家たちは、借金をしてでも商品投機を増やす。だから、需要が増えて、ますます物価が上がってしまうのだ。

ガソリン価格が前年比で49%も上昇!

FRBは当初、「物価上昇は一時的なもの」とブレーキを踏まなかった。金利を上げれば、景気の失速が目に見えていたからだ。その後、今回の物価上昇が継続的なものであるとようやく認めたが、金利引き上げには動いていない。

しかし、バイデン大統領は追い詰められている。昨年12月のガソリン価格が前年比で49%も上昇したからだ。アメリカはガソリンにほとんど税金をかけていないから、原油価格の上昇がストレートにガソリン価格に結び付く。そして車社会のアメリカでは、ガソリン高騰が政権に対する不満に直結するのだ。いまのインフレを放置すれば、今年の中間選挙で民主党の勝ち目はなくなってしまう。

だから、ついにアメリカがブレーキを踏む時期がやってきたと考えるべきだ。ブレーキは、2つある。1つは、金利の引き上げで、もう1つは原油の増産だ。アメリカはシェール革命によって世界有数の産油国になっている。中東が言うことを聞かなくても、自国の石油産業を動かせば、アメリカは原油供給を増やすことができるのだ。

だが、アメリカはこれまで、とてつもない「スピード違反」をしてきたから、今後はかなり強いブレーキを踏まざるを得なくなる。しかし、強いブレーキを踏めば、バブルが崩壊してしまう。バブルを軟着陸させながら、思いきりブレーキを踏んで、インフレ率を抑える神業が必要だ。いままでのツケが回ってきているのだ。

現在の状況は、アメリカで毎日100万人前後の新型コロナの感染者を出していることに似ている。経済優先で対策を怠ったから、感染が止まらないのだ。もしかすると、ゴールはクラッシュしかないのかもしれない。

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