(画像)GAS-photo / shutterstock
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北朝鮮…北京オリンピック直前“ミサイル連続発射”の不気味な狙い

1月17日、北朝鮮が今年に入って早くも4回目となる弾道ミサイルの発射実験を行った。


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5日の発射の際、北朝鮮は「極超音速ミサイル」と明らかにしたが、韓国国防省が「極超音速ミサイルと呼ぶには技術的に未達で、誇大な宣伝」と小バカにしたため、11日には音速の10倍(マッハ10)で飛翔するミサイルを発射し、技術が一定レベルに到達していることを示した。


14日に発射したミサイルは、ロシア製の短距離弾道ミサイルを改良した「北朝鮮版イスカンデル」で、鉄道機動ミサイル連隊による訓練とみられる。


「北朝鮮メディアは11日、金正恩総書記と実妹の金与正党副部長が発射実験を視察し、その成功に小躍りしたと報じています。兄妹によりいかにミサイル開発が進歩したかを国民に見せつけ、国内に鬱積する不満をそらすためでしょう」(軍事アナリスト)


17日に発射した2発の短距離弾道ミサイルは、追加の経済制裁を科すと発表した米国をけん制する目的がある。昨年末には正恩氏を《犬野郎》と侮辱する落書きも見つかり、国内の混乱を引き締めるためにも、新たな兵器開発は避けて通れない。


「北朝鮮が核・ミサイル開発を強行する背景には、大きく3つの狙いがある。まずは単純に軍事力増強、次にそれを誇示して対外交渉を有利に進めること、その結果として、自国の地位向上を図ることです」(北朝鮮ウオッチャー)


直近の四度にわたるミサイル発射実験は、2月4日開催の北京冬季五輪を目前に控える中国と、3月9日の大統領選挙まで2カ月を切った韓国への強烈なメッセージでもある。

“核兵器保有国”の仲間入りを熱望…

「7日に五輪不参加を表明した上でのミサイル発射ですから、中国に対する嫌がらせとしか考えられない。中国も相当に困惑したようで、15日には中朝国境の陸路で貿易再開の動きがあることが判明しました」(国際ジャーナリスト)

よく分からないのが親北政権である韓国与党に、不利になるような挑発をなぜ行ったかという点だ。核・ミサイル開発への揺るぎない姿勢を示したことは、対北強硬派の保守陣営を後押しする材料になりかねない。


「親北の左派系与党政権に有利となる状況をつくるのであれば、文在寅大統領が進めている朝鮮戦争の終戦宣言に前向きな姿勢を示し、平和攻勢をかけるはず。しかし、それに反する今回のミサイル発射は、南北首脳会談や終戦宣言に応じないという意思表明です。韓国を完全に蚊帳の外に置きながら米国との核協議を進め、最終的には『核兵器保有国の仲間入り』を果たし、自国の立場を強化しようという算段でしょう」(同・ジャーナリスト)


ここ2年余り正恩氏が注力してきたのは、米国とその同盟国の迎撃システムを回避できるミサイルの開発だった。米国主導の先制攻撃を検討するには、代償が大きすぎると相手に悟らせるのが狙いだ。


昨年10月に発射実験が行われた新型の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)は、通常よりも低高度かつ変則的な軌道で飛行したという。これが完成した場合、海上自衛隊のイージス艦搭載型迎撃ミサイル(SM3ブロック2A)や航空自衛隊の地対空誘導弾ペトリオット(PAC-3)では、迎撃困難とされる。


「同様の弾道ミサイルは、中国やロシアも開発・保有している。つまり北朝鮮のミサイル技術の進展は、自国での開発実験の蓄積に加え、中国やロシアの技術を流用している可能性が高いのです」(同)

抑止力強化へ対策は急務!

正恩氏は念願の「核クラブ入り」を米国に促すためには、日本にある米軍基地を揺さぶるのが早道と考えている。2017年3月に長距離弾道ミサイルを発射した際は、「このミサイルは在日米軍基地攻撃を意図している」と明言。また『労働新聞』などの報道機関が、核攻撃の標的として東京、大阪、横浜、名古屋、京都などの大都市を具体的に挙げたこともある。

「北朝鮮の意図を分析した米国防情報局(DIA)は、昨年10月に『2021北朝鮮の軍事力』という報告書を作成した。その中で米国は北朝鮮を切迫した脅威と見なしており、日本と韓国を標的とするスカッドミサイルと準中距離弾道ミサイル『ノドン』を配備していると指摘しています」(前出の軍事アナリスト)


日本の自衛隊も、すでにノドンに対しては迎撃態勢を整えているとされる。しかし、将来的に極超音速ミサイルが実戦配備された場合、日本には抑止力がなく、したがって「敵基地攻撃能力」の保有を早急に検討しなければならない。


現在は日米防衛協力の下で、敵基地攻撃の分野は米国の役割分担とされているが、今後は日本が主体的にどう取り組むのかが問われることになる。その意味では「専守防衛」を見直す好機という意見もある。


「1月12日の記者会見で松野博一官房長官が、極超音速ミサイルの迎撃が可能とされる『レールガン(電磁砲)』の導入も検討すると述べました。抑止力強化へできる限りの手段を保有し、対策を急がなければならない時期に来ています」(同・アナリスト)


極超音速ミサイルの開発は、まだ発展途上の段階だ。しかし、北朝鮮は虎視眈々と実験を進めており、本格配備されるまで時間はそう多くかからないだろう。