男性はあらためて公判で偽証した2人を呼んで、刑務所に入らなければ得られたはずの利益を説明した。
「私は事件の半年前、勤務先の電気設備会社で重役になったんです。10年計画のプロジェクトを任され、10億円規模の仕事をスタートしたところだった。ところが、それも事件ですべてダメになった。私は会社を解雇され、冤罪が明らかになっても戻ることはできない。少なくとも75歳までは働けるはずだった。その金を贖罪として払ってくれないかと頼んだんです」
〝主犯〟のB子さんには5000万円、〝従犯〟の兄には1900万円を請求した。月収30万円の派遣社員の兄は、「一生かけて払います」と毎月10万円ずつ支払い始めた。
ところが、B子さんは話を聞いている途中で、「ジュースを買ってくる」と言って抜け出し、そのまま逃げてしまった。携帯は着信拒否になった。郵便物を送っても、封も切られずに返却される始末だ。
一方、A子さんに対しても子供たちの養育費を請求することにした。A子さんは二番目の夫と不倫して離婚。子供たち2人を押し付け、男性夫婦が13年間も育てることになったからだ。
「その総額を1650万円と算出した。それを1人で払えとは言わない。元夫と半分ずつ払えという手紙を送ったんです。そしたら携帯は着信拒否になり、弁護士に依頼し、付きまとうなという文書を送ってきた」
A子さんの代理人である白井博文弁護士(山口県弁護士会)は次のように話す。
「A子さんは少女時代に性の慰み者にされ、苦々しい過去の思い出を振り切って、生まれ変わるんだとずっと言い続けていた。それなのにまた養父が金銭を要求する速達便を送ってきた。その件に関して相談を受け、彼にはA子さんに近付かないように求める手紙を出しました」
男性に対しては、請求すべきものがあれば、訴訟を起こすように頼んでいるという。
「相手方から公式の連絡が入れば、どう対応するか協議する必要があるし、彼が権利を持っている分については、もちろん応じないといけないと彼女を説得するつもりです。彼女の子供については、養父にかなりお世話になったんじゃないかという推測も働いております」(同)
「ひたすら逃げるしかないんだと思います」
男性は再審無罪が確定したとき、2800万円の刑事補償を受け取っているが、そのうちの970万円を3人の弁護士に成功報酬として支払った。その後、国家賠償請求訴訟の印紙代や生活費などで費消し、ほとんど金は残っていない。現在も事件現場となった市営住宅に住み、タクシー運転手をして糊口をしのいでいる。
「何が許せんて、2人に反省がないことなんですよ。『もう終わった話や』と開き直っている」と話すのは、男性の息子で、A子さんの弟に当たる人物(43)だ。彼はさらに驚くべき内情を打ち明ける。
「B子は現在、27歳になっていて、2歳の女の子と1歳の男の子の母親になっています。バイト先の居酒屋で、既婚者のオーナーと知り合い、略奪婚して、現在は運営会社の取締役になっている。B子の府民税・市民税証明書を調べたところ、令和元年度は年収1200万円もあった。それなのに、『これは旦那の金だから』と言って返さない。今年3月にコロナが流行る直前、別の人間に会社を譲渡し、2人には1億円近い金が入っているはずなんです。今は加害者と被害者の立場が逆転しているはずなのに、そういう事情自体、夫に打ち明けていない節がある。だから、ひたすら逃げるしかないんだと思います」
本誌は大阪市都心部にあるB子さんの自宅を訪ねた。21階建ての見事なタワマンだ。オートロック越しの呼び鈴には、一切返答がなかった。携帯電話にもかけたが、「現在使われておりません」になっていた。
事件から12年たっても、関係者の間では、事件は終わっていないのだ。
【画像】
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