エンタメ

『前科者』/1月28日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

Ⓒ2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

『前科者』
監督・脚本・編集/岸善幸
出演/有村架純、森田剛、磯村勇斗、若葉竜也、マキタスポーツ、石橋静河、北村有起哉、宇野祥平、リリー・フランキー、木村多江
配給/日活・WOWOW

28歳になった有村架純が、仮釈放となった元受刑者の社会復帰を助ける「保護司」を演じるサスペンス映画です。「罪を憎んで、人を憎まず」を地でいく、非常に繊細でシリアスな役どころを見事に演じきり、明らかに大人の女優へステップアップを図っているな、というのが先ず以っての感想です。可愛らしい童顔の女優さんが実力派に脱皮するために、通らなければいけない道ですよね。

本作を見て一番驚いたのは、さまざまな事情を持つ「前科者」の更生のために、仕事や生活など、あらゆる側面で寄り添う保護司が国家公務員で「先生」と呼ばれながらも、ボランティアなこと。この映画でも、有村架純はコンビニ勤務で生計を立てながら、昼夜を問わず奔走しています。こんなに難儀で尊い仕事が無報酬とは、なり手がいるんだろうか、果たして持続可能な仕組みなんだろうかと思ってしまいました。

サスペンスドラマの謎解きとしては、意表を突く展開というほどでもないのですが、罪の背景にある虐待や、いじめ、格差など、現代社会のシリアスな問題がみっちりと詰め込まれ、色々と考えさせられます。かくも重い話なのに、『ビッグコミックオリジナル』に連載中の人気コミックが原案だという点でも、どんな漫画なんだ!と驚きました。

元『V6』森田剛の演技力も見どころ

本作でさらに見どころだと感じたのは、もう1人の主演俳優である森田剛の演技力です。自分は解散したV6のメンバーとしか認識しておらず、見知っていることといったら、宮沢りえとのデート場面くらいでしたから。

この映画の直前に、田中邦衛が演技論を語るテレビ番組を見たんですが、どちらかというと大仰な演技をしていた田中邦衛が、ある日監督から「演技とは引き算だ」と言われて、愕然としたと語っていました。そこから名優への道へ歩み出したんですね。森田剛の、削ぎ落として、真に迫った演技は、田中邦衛の演技論を彷彿とさせられました。削ぎ落としすぎて、セリフがよく聞こえないシーンもままあったんですが、これも演出でしょうか。

ところで、最近、小説を超えるような信じ難い模倣犯罪が増えています。放火テロにしても、ライターの油じゃダメで、ガソリンを撒く方がよく燃えるなど、テレビで事細かに解説するもんだから、おかしな学習効果が発生しています。

本作も、とある手口での連続殺人が発生するんですが、安易に拳銃を手に入れる方法がマネられたりはしまいか、少々心配です。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

あわせて読みたい