トヨタが仕掛けるEV戦争“4兆円投資”の秘策~企業経済深層レポート
トヨタ自動車が電気自動車(EV)への巨額投資を発表したことで、いよいよ世界の〝EV戦争〟が幕を開けた。
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昨年12月14日、トヨタの豊田章男社長は東京・お台場での記者会見に自信満々の表情で臨んだ。豊田社長の背後には、今年半ばの発売を目指す新型EV『bZ4X』をはじめ16台ものEVがズラリと並べられ、その壮観な光景の中でEVの世界販売台数を2030年に350万台とする目標を掲げ、4兆円規模の投資を行うと発表した。
この会見の意義を経営コンサルタントが解説する。
「350万台は従来の販売目標の200万台を大幅に上回る数字で、同年までにEV30車種を展開するという。また、EV関連だけで4兆円を投資し、うち2兆円を車載電池の開発に投入するとしたのです」
一連のトヨタの動向について、モータージャーナリストが語る。
「世界が驚くのも無理はない。ついこの間まで、トヨタはEVに後ろ向きとされていたからです。例えば、昨年5月時点での計画では、トヨタの主力はあくまでハイブリッド車(HV)などでした。さらに、昨年9月に行われた日本自動車工業会の記者会見でも、豊田社長はEV化について『一部の政治家から、すべてEVにすれば良いとかいう声を聞くが違う』と、強く反発していました」
それから半年で軌道修正、EV化重視へ舵を切ったのだから、ビッグニュースとなったのも当然だ。この背景には何があったのか。
自動車メーカー関係者は、こう解説する。
「トヨタにすれば、従来と基本的には変わっていないというスタンスです。つまり、HVや水素自動車にも、これまでと同じく力を入れていく。違いはEV化の目標数値を大きく引き上げたことです」
“全面EVシフト”を打ち出せなかった理由
現在、地球温暖化の主要因は、自動車の排気ガスに含まれるCO2だとされている。そのため、世界の自動車業界はCO2を排出しないEV傾斜が主流だ。こうした流れを受けて米国は、新車販売に占めるEVの比率を2030年までに50%に引き上げるとした。欧州連合(EU)も2035年までに、HVを含むガソリン車の新車販売を禁止する方針を掲げている。
世界の各自動車メーカー、例えばボルボ(スウェーデン)なども2030年までにすべてEV化の方針だ。トヨタ最大のライバル、フォルクスワーゲン(ドイツ)も2030年までに70種のEVを発売し、世界販売の5割をEVにする目標で、現在の販売台数から考えれば500万台超の規模となる。
しかし、トヨタだけはEV化に慎重姿勢を崩していなかったことから、英ロイター通信に「国連気候変動枠組み条約会議」の公約を支持しない企業と、名指しで指摘されたほどだった。
トヨタがEV化を強く打ち出せなかった理由について、省庁関係者が解説する。
「トヨタは2020年、世界170カ国で約950万台を販売する世界一の自動車メーカー。欧米の裕福な国以外、車はガソリン頼りの国が圧倒的だ。トヨタはこれらの国々のために、CO2の排出を抑えるエンジン開発を重視してきた。しかし、EV電池の生産には膨大な電気が必要であり、ガソリンスタンドに匹敵する充電施設の普及も空白だ。そのためにトヨタは、全面EVシフトを打ち出せなかった」
EV化に消極的というレッテルを貼られたトヨタは、株価が大きく下がり、その反対に世界一のEVメーカーであるテスラ(米国)の株価は上昇の一途をたどっている。21年におけるテスラの時価総額は、約113兆円でトヨタの3~4倍だ。
レクサスをEV化すればテスラに圧勝!?
トヨタのEV化への転換は投資家への配慮とともに、放置すれば今後、全体的な自動車販売にも響くと判断したことが背景にあるともいわれる。「今回、トヨタが大胆なEV化を推し進めた理由は、事故の多い既存のEV電池ではなく、安全性の高い電池の開発にめどが立ったからともささやかれている。電池開発では世界トップのBYD(中国)と共同開発を進め、すでに電池の小型化とEVの低コスト化を実現している」(前出・自動車メーカー関係者)
電池の安全性と走行距離が確保できれば、残りは性能と価格が問題だ。
「EVにおける世界販売では、テスラがトップを独走している。EV専業でネット販売中心の同社は、半導体不足の中で昨年7~9月の世界販売台数が24万1300台と、四半期で過去最高を更新する好調ぶりだ。テスラはネット販売のため、人件費などが大幅に節約できる。これに比べると販売店網が張り巡らされたトヨタは、固定費などがかさむが、ここをどう強みに変えられるのかが課題だ」(前出・経営コンサルタント)
自動車技術において世界一というトヨタが、高級車ブランドの「レクサス」をEV化すれば、テスラに圧勝するとの声もある。
しかし、先行するテスラは23年に200万円台の大衆車で勝負を懸けるとみられ、今後、トヨタが革新的なEV大衆車を開発できるかで、世界〝EV戦争〟の勝敗が決まるだろう。
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