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女優・烏丸せつこインタビュー“34年ぶり”主演映画『なん・なんだ』思いの丈

女優・烏丸せつこ(66)が34年ぶりに主演した映画『なん・なんだ』(配給・太秦)が、1月15日から公開される。ベテラン男優・下元史朗との共演による、40年を経た夫婦の始まりとさよならの物語だ。

――烏丸さんといえば、NHK連続テレビ小説『スカーレット』の小池アンリ役が評判となりました。

烏丸 あのとき、私の母が死にかけていたから、やりました。地元の話だったし、母のために出たんですよ。でも、スタジオドラマは流れ作業だから疲れました。

――今回はおばあちゃん役ですが、初めて?

烏丸 よくやってますよ。ちょっと前まではお母さん役でしたが、次の作品(2月4日公開の映画『夕方のおともだち』)ではオムツまでしてますから、すごい面白いよ。

――今回の映画『なん・なんだ』は山嵜晋平監督の、自殺しようとしていた老人を止めた体験が、ヒントになっているそうですね。

烏丸 それは初めて聞きました。この監督、プロデューサーとの板挟みになってかわいそうなんだけど、頼りないから。撮影中に私が「ここ変だけど」と言っても「考えときます」で、そのままだし。こいつはイカン、と。予告編はいい感じですけど、本編は「なん・なんだ?」って。

――烏丸さんがデビューされたときに生まれた監督なので、自分のほうからアドバイスすることも多かったのでは?

烏丸 脚本の段階で「こんなセリフあり? 気持ち悪いよ」と何度言っても、監督は「考えます」だけ。私、セリフもずいぶん変えたんですよ。元のセリフが「私の40代、返してよ!」というのを、「私の40代、なんだったのよ!」に変えたり。もっと低予算の映画にも出たことあるけど、もうちょっと志を高く持った作品を作っていこうよ。

――浮気する妻・美智子役で、メークや衣装に気を使われたと思いますが。

烏丸 私の衣装は用意されていたけど、他の人は自前だって。和田光沙(娘役)は、それを自分でアイロンかけたりしてましたね。とにかく、ダサいおじさんをやるにしても、バラバラで統一感がないわけ。

――夫役の下元史朗さんとは初共演ですよね。どうでした?

烏丸 初めてでした。何かで監督に怒っていたな。私がセリフを変える提案をしたら、「いいよ」って言ってくれました。

“ツッパリ女優”と呼ばれた毒舌は健在

横須賀の団地に住む美智子(烏丸せつこ)は、文学教室に行くと言いながら、京都に行って医者と浮気をしているが、そこで交通事故に遭い、昏睡状態のまま入院してしまう。駆けつけた夫の三郎(下元史朗)は、美智子のカメラに残された男を見て、愛娘と一緒になって浮気相手を捜しに行く。その間に美智子は意識を回復して…。

――夫が部屋を出て行く妻に「年寄りの厚化粧は見苦しいぞ」と吐くセリフ、何かが始まる予感を感じさせて、決まっていました。

烏丸 美智子が浮気先で引き逃げに遭う。そこまでは百歩譲って許してもいいけど、ラストはなんとかしてくれよ。あの3年後の記念撮影シーンは、はっきり言って蛇足ですね。その前、私たち夫婦は住まいの団地に戻り、婚姻届を持って記念写真を撮る。そこで「私、あなたのゴツゴツした手が好き」と言う、あのシーンはいいんですけどね。

――団地の郵便受けが映ると、3分の1ぐらいがガムテープでふさがれていました。あれは意図的に貼ったものですか? それとも実際のもの?

烏丸 あれは横須賀の団地のロケですけど、実際の状況ですね。住民がいないんですよ。あのロケーションは良かったけど、なんでドローンを使うのかな。ただの俯瞰でよくない?

――美智子は若い頃、写真家を目指していて、撮った写真が縁で三郎と結ばれます。

烏丸 美智子が撮った写真を夫が見つけると、そこに〝労働者〟が写っている。何か左翼の匂いを出していて、おかしいじゃない。夫はリタイアした大工で、浮気相手は医者でブルジョア。美智子は、遊郭の女が客との間でつくった子になっているけど、今どきそんなのないよ。

――浮気している娘とのやり取りが、ちょっと面白いですね。病院の中で、「私、分かったの。心と体って切り離せないって」とか言ったりして。

烏丸 そのセリフも気持ち悪い。心と体なんて、簡単に切り離せるわよ。(作り手が)男から見て、女はこうだと決めつけている。それに、娘も不倫してるって、美智子のDNAを引き継いでいるかのようで、これみよがしだよね。

話を聞いている間、ずっと烏丸さんから手厳しい意見が飛び出してくる。さすが〝ツッパリ女優〟と呼ばれた毒舌は健在だが、それは、若手映画人への「もっとしっかりしなさい」という励ましでもあるのだろう。以下は、これまでの女優業や今後について語っていただいた。

周りが勝手にイメージをつくっただけですよ

――ご自分の作品で、お気に入りのものを教えてください。

烏丸 80年代後半に、テレビの2時間ドラマを撮った時期がありました。そこでは、若手の監督が映画の撮り方をしていて刺激的でしたね。水島総監督の『かまきり』(84年、日本テレビ)『彼らの一番危険な夜』(88年、フジテレビ)や、上野隆監督の『火の蛾』(85年、読売テレビ)などは大好きです。水島さんとは、また一作やりたいですね。

――最近の映画では、『教誨師』(18年)の死刑囚役などが強烈でした。

烏丸 佐向大さんが脚本を書いて監督もしたんですけど、あれも良かったと思いますね。

――ポール・シュレイダー監督のアメリカ映画で、三島由紀夫を題材にした『MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS』(85年)にも出演されています。どんな感じでした?

烏丸 ジュリー(沢田研二)の素っ裸、カッコ良かったでしょ。私もそこで、裸になってジュリーと絡んでいる(笑)。でもあれ、三島家の意向で日本では見られないんだよね。緒形拳さんも、カッコいいのに…。

――若い頃は筑紫哲也さんをメロメロにさせたりして、〝おじさんキラー〟として鳴らしていましたが…。

烏丸 周りが勝手にイメージをつくっただけですよ。実際は、ただの飲み仲間。筑紫さんは『メイク・アップ』(87年)のとき撮影現場に呼んだら、監督が中原俊だから嬉しそうに出てくるんですよ。

――津川雅彦さんにインタビューしたとき、どの女優さんとのベッドシーンが良かったですかと尋ねたら、いの一番に「烏丸せつこはやりやすかった」とおっしゃっていました。

烏丸 津川さんは大好き。面白いんだもん。『マノン』(81年)で、東陽一監督と一緒にキャスティングしたんだけど。他に佐藤浩市、荒木一郎、河原崎長一郎、加茂さくらさん…などもいて、懐かしいけど死んじゃった人もいるね。

時々、お酒を飲んで暴れます(笑)

――ベテラン俳優の終活が話題にのぼり始めていますが、烏丸さんはどうなんでしょうか?

烏丸 私、とっくに捨ててますから。もともとモノは持たないし、子供が独立したときに、ほとんど捨てました。

――健康面で気を使われていることはありますか?

烏丸 健康診断に行ったことがないんです。以前、腕にヒビが入ったときに血液検査をしましたが、どこも悪くなかった。どっちみち、がんになったら、それで死ねばいいと思ってます。もう十分、生きましたし。

――お酒が好きだそうですね。

烏丸 あまり飲めなくなりましたね。でも時々、飲んで暴れます(笑)。

――今後、やりたい役とかありますか?

烏丸 この年齢ですから、かなり限られてきますよね。役を待っているしかない。でも、もう主演はできませんね。疲れますし、こういう路線に前からシフトしているから。

――芝居はどうですか?

烏丸 前に一度だけやりましたけど、あまり興味ないです。そのときは風間杜夫さんに、メッチャ怒られましたけどね。

――最近ハマっていることとか、ありますか?

烏丸 とみに、お笑いが好きになりましたね。中でも「わらふぢなるお」が推しですね。漫才コンビですけど、最近は彼らの宣伝ばかりしています。推しはこれです。

――座右の銘は?

烏丸 男は負けると知りつつ、戦わなければならないときがある。ダサいけど、誇りを持って生きて行こうよ、っていう感じかな。

――最後に、読者にひと言。

烏丸 久しぶりの烏丸せつこを見に、劇場においで! やってるじゃん、ぼちぼち私。一生懸命やってるよ。

(取材・構成:若月祐二/撮影:笠井浩司)

烏丸せつこ(からすま・せつこ)
1955年2月3日、滋賀県大津市出身。79年、6代目クラリオンガールに選ばれ、翌年の映画『四季・奈津子』(監督・東陽一)で主役デビューする。以来、現在に至るまで映画、ドラマでさまざまな役を演じてきた。代表作は映画『駅/STATION』(81年、監督・降旗康男)。最新作に2月4日公開の映画『夕方のおともだち』(監督・廣木隆一)がある。

『なん・なんだ』1月15日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開。企画・監督:山嵜晋平 プロデューサー:寺脇研 出演:下元史朗、烏丸せつこ、佐野和宏、和田光沙、吉岡睦雄、外波山文明、三島ゆり子ほか
公式サイト:nan-nanda.jp
ツイッター:@nan_nanda0115
Ⓒなん・なんだ製作運動体

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