森永卓郎 (C)週刊実話Web
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岸田首相の「聞く力」で新年早々経済失速!?~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

新型コロナの新たな変異ウイルス「オミクロン株」の特性が、かなり明らかになってきた。


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1つは、とてつもない感染力だ。世界保健機関(WHO)は昨年12月18日、すでにオミクロン株の市中感染が広がっている地域では、1日半から3日で感染者数が倍増していると指摘した。


国内でも、1人の感染者が何人にうつすかを示す「実行再生産数」が、デルタ株の4.2倍になったとする研究結果を京都大学の西浦博教授らがまとめ、厚生労働省の専門家会議に示している。


一方、オミクロン株の重症化率や死亡率がかなり低いことも、ほぼ確実になっている。その特性を踏まえれば、感染が急拡大したとしても、感染第5波のときのような医療崩壊のリスクは小さいだろう。


感染症は大きな変異をするたびに、感染力の拡大と弱毒化が同時進行するのが常だ。新型コロナの場合も同じ道をたどっている。だから、オミクロン株が急拡大し、多くの国民が感染することが、新型コロナの収束につながると見通す専門家もいる。


その理屈から言えば、オミクロン株への最善の対処は、抑制策を取らずに感染を蔓延させることになる。正直言って、私も、経済のことだけを考えるのであれば、それが最善の策である可能性は否定できない。


しかし、そのシナリオは政治的にあり得ないだろう。岸田内閣の支持率は、外国人の入国を禁止する強力な水際対策によって支えられている。一方で、新型コロナには長い潜伏期間と無症状という大きな問題がある。さらに、現在の空港検疫で使われているのは、感度の低い抗原検査だ。

再び緊急事態宣言を発出せざるを得ない状況へ…

すでにオミクロン株が空港検疫をすり抜ける事例も発生しているから、市中感染が広がっていくことは避けられない。そして、一度、市中感染が始まれば、爆発的な感染拡大が起こることも確実だろう。

問題は、そのときに政府がどのような対応を取れるのかということだ。すでに政府は、これまでのステージ分類を改め、新規感染者数ではなく、医療ひっ迫の度合いを重視する新たなレベル分類を導入している。しかし、岸田内閣がその通りに行動できるのかについては、大きな疑問が残る。


新型コロナ感染により、これまで1万8000人以上が命を落としている。にもかかわらず、一般の高齢者に3回目のワクチン接種が始まるのは2月以降であり、そうなると感染爆発が避けられなくなる。


仮に3日間で倍増ということになれば、1カ月で感染者は1000倍になる。1日300人程度の東京都の感染者数が30万人、全国だと100万人になるペースだ。


オミクロン株の死亡率が季節性インフルエンザと同じ0.1%に下がっていたとしても、毎日1000人が命を落とすことになる。欧米は、そうした事態が起きても、平気で経済再開を進めている。しかし、国民に「聞く力」をアピールしてきた岸田文雄総理は、「医療体制は確保されているから、大丈夫だ」とは、とても言えないのではないだろうか。


だから私は、日本政府が再び緊急事態宣言を発出せざるを得ない状況に追い込まれるとみている。観光業や飲食業など、コロナ禍で大打撃を受けた業種は、ようやく活気を取り戻してきたが、それは、うたかたの夢に終わりそうだ。