『ちあきなおみ 沈黙の理由』著者:古賀慎一郎~話題の1冊☆著者インタビュー

『ちあきなおみ 沈黙の理由』新潮社/本体価格1350円

古賀慎一郎(こが・しんいちろう) 1967年、愛知県名古屋市生まれ。高校卒業後、東京キッドブラザーズを経て、俳優・京本政樹の付き人を1年間務める。91年、ちあきなおみ個人事務所「セガワ事務所」にマネジャーとして入社し、8年間をすごす。現在は郷里へ戻り、サービス業に従事している。
――古賀さんは8年間、付き人・最後のマネジャーとしてちあきなおみさんを支えてきました。どんな人物だったのですか?

古賀 一言で言えば「女」です。俗に言う「イイ女」と言うよりは、「本物の女」。そうでありながら、私はちあきさんに、侍の精神を感じていました。現役時代、ステージへ向かうちあきさんは、まるで死出の旅路に就くような雰囲気がありました。1曲歌うごとに完璧に生き、そして死ぬ。映像で見ても分かると思いますが、完全に歌いきっている。ちょっと凡人には理解できないような、懐の奥行、すごみを感じていました。意志の強い方で、駄目なものは駄目、そんな頑ななところがあります。

一方で、日常でのちあきさんは、少女のような非常にかわいらしい方でした。そして真面目。今、向き合っていることに対して真剣。自分では「私は底意地が悪い」とおっしゃっていましたが、心根は限りなく優しい方です。生意気なことを言って随分怒られましたが、いつも許してくださいました。私にとっては今でも師のような存在です。

表舞台から消えた理由とは…

――突然の活動停止から28年。彼女が表舞台から消えた理由は何だったのでしょうか?

古賀 プロデューサーの郷鍈治との結婚後、2人で1人のように生きてきたので、郷さんの死は、「ちあきなおみ」の身体の一部をもぎ取られてしまったかのような状態でした。私が「ちあきさん自身がプロデュースすればよいのでは?」と問うと、「自分の好きなものしかやらなくなってしまう」と言っていましたね。ちあきさんにとって郷さんは、自分の気付かない可能性を引き出してくれる師匠のような存在でもあったので、郷さんがいなければ、何もできないとの判断があったんだと思います。郷さんの死は同時に、ちあきなおみの命をも取られたということだと思っています。

――活動停止を聞いてどう思いましたか?

古賀 私はいつか再開すると楽観視していましたが、徐々に復帰の意志はないと分かってきました。周りの関係者は復帰へ向け何度も説得を試みていましたが、徐々に諦めムードになってしまいました。誰が説得しても無理だったと思います。

――今なお、復帰を切望する声は絶えません。可能性はあると思いますか?

古賀 復帰は100%ないと思います。今、ちあきさんとの交流はありませんが、もう一度、必ず会える気がしています。活動停止はアーティストに残された最後の自由だと思うので、どうか穏やかな時間をすごしてほしいと思っています。

(聞き手/程原ケン)