企業経済深層レポート (C)週刊実話Web
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あえて値下げに挑戦する会社の“したたか”戦略~企業経済深層レポート

年末年始を迎える中、パン粉やコーヒー、電気料金と、値上げラッシュが相次ぐ。その背後では新型コロナに加え、原油高や気候変動による不作など、さまざまな要因が複雑に絡み合っている。


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理由はともかく右も左も値上げの中で、あえて「値下げ」に挑戦する大胆な企業もある。その内実を検証してみた。


値下げをうたう筆頭企業は、「お値段以上」のキャッチフレーズで知られる日本最大の家具チェーン『ニトリ』(札幌市)だ。消費生活アドバイザーが言う。


「ニトリは11月12日から『生活応援値下げ』と称し、インテリア用品など1000を超えるアイテムの値下げを断行しました。ところが、予想以上の大好評を受け、さらに対象商品を拡大。11月19日から来年1月11日までの期間で、家具264アイテムの追加値下げに踏み切りました」


どんな商品がいくらになったのか。例えば、通常価格2万9900円(税込・以下同)のダイニングテーブルが、キャンペーン中は5000円引き。また、通常価格3万9900円のマットレスが、3000円引きで売られている。


「期間中は配送料も5万円以上の購入者には無料です。最近はどこも配送料が高いだけに、このサービスも大好評です」(同)


ニトリのライバルである家具大手の『イケア・ジャパン』(千葉県船橋市)も負けてはいない。今年7月ごろから、家具や生活用品など200アイテム以上を2~3割ほど値下げしている。


小売り最大手『イオン』(千葉市)も踏ん張る。同社は「価格凍結宣言」として、約3000品目のプライベートブランド(PB)商品を年内は値上げしないと発表したのだ。

話題をさらった小田急電鉄の“全区間一律50円”

経済アナリストが解説する。

「生鮮食品などは対象外ですが、値上げで話題のマヨネーズ、小麦粉、コーヒーなどのPB商品は、価格据え置きで内容量を減らす〝実質値上げ〟もしない方針。しかも、イオンだけではなくグループの『イオンスタイル』『ダイエー』『まいばすけっと』など、全国約1万店舗で実施するというから、消費者にとっては大助かりです」


生活雑貨店『無印良品』を展開する『良品計画』(東京都豊島区)も、9月から食品、生活雑貨、衣料品などの売れ筋商品を中心に、約200品目の値下げを断行して消費者を喜ばせている。


「見逃せないのがちょっとした食品類です。例えば、レトルトの『素材を生かしたカレー キーマ』が290円(税込・以下同)から250円に値下がりしました。料理が面倒なとき、サッと食べるのに便利です。40円引きでも困窮者には本当に助かります。食べ物以外で見逃せないのは『綿パイルのフェイスタオル』で、これが490円から200円も値引きされている。掘り出し物がザクザクです」(同)


鉄道会社の運賃値下げでは、小田急電鉄(東京都新宿区)がマスコミの話題をさらった。交通アナリストが言う。


「2022年の春から、小田急線の小児IC運賃を全区間一律50円とすると発表し、注目されました」


小田急の度肝を抜く運賃改定の狙いは、子育ての利便性を高めることで、長期的視点で沿線に住む家族を増やし、小田急の長期繁栄につなげたいというものだ。


「50円改定で年間約2億5000万円の減収を想定しているというが、その一方で子供の乗車には大人が同伴するケースが多く、全体的な乗客増加も見込めるという皮算用もある」(同)

食品ロスを防ぐ新たな試み

鉄道絡みの値下げと言えば、高額運賃で不評の北総鉄道(千葉県鎌ケ谷市)が、来年、通学定期運賃の平均64.7%引き下げを筆頭に、平均15.4%の大幅値下げ案を公表した。

北総鉄道が運営する北総線は1979年に開業し、千葉県北部の印西、白井、船橋の3市にまたがる千葉ニュータウンを東西に走り、都心につながる約32キロの鉄道だ。しかし、鉄道運賃は他社の2~3倍と高く、住民や自治体から値下げ陳情が出されていた。前出の経営アナリストが言う。


「周辺地域の発展により、赤字が解消する見込みが立ったため、値下げ案が出たようです」


鉄道関係では目新しい値下げもある。最近、名古屋駅周辺の3カ所に、カップ焼きそばなど複数の食品が入った『みんなのBOX』が設置された。食品ロスを防ぐため、賞味期限が近づいた食品販売を行うためで、JR東海グループが取り組み始めた試みだ。JR東海関係者が解説する。


「専用サイトで利用販売機や商品を選び、キャッシュレス決済で購入すると、メールで届くパスワードで販売機ドアを解錠し、商品を取り出す仕組みです。3~5割ほど安く購入できるうえ、食品ロスにも貢献することになります。今後、全国500カ所に設置予定です」


一連の値下げは、2~3年先を見越して顧客をがっちりつかみ、勝ち抜くための「したたかな戦略」でもある。ただ、いずれにしても消費者からすれば、各企業の値下げ戦略は値上げラッシュの中、まさに「干天の慈雨」と言えるだろう。